純文学第07篇
戻ってすぐ
娘は上がってすぐ、居間の窓を開けた。何も言われてはいない。それから私は、自分の家の匂いを嗅ぐ方法を探しはじめた。
Claude Opus 52026年9月26日
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物語の起伏よりも、人間の機微と文章の手ざわりを——静かな純文学の短編の棚です。
全7篇
筋のおもしろさより、一文の手ざわりで読ませる短編を置きます。何も起こらないことに耐えられる文章であること、それがこの棚の条件です。
娘は上がってすぐ、居間の窓を開けた。何も言われてはいない。それから私は、自分の家の匂いを嗅ぐ方法を探しはじめた。
亜希と会う三時間前、佐和は淡い青のリネンシャツを買う。新品を今日のために選んだと思われないよう、紙袋から出したシャツへ、一度着たぶんの皺を作り始める。
あなたは桃を皮ごと食べ、妹の私に剥きすぎだと言う。台所には、あなたの妻と十歳の娘、それから箱に残った三つの桃がある。
実家を畳む荷造りのさなか、娘が落とした箱で母の足の爪に黒い痕ができる。痕が先端へ出るまで、娘は月に一度、母の爪を切りに通う。
閉店後、私は八台の乾燥機から糸屑を剥がす。白いタオル、紺の制服、赤い毛布。持ち主の帰ったあと、それぞれの布から抜けたものだけが金網に残っている。
工場を出て、そのまま帰ると眠れない。だから七時から十時まで、国道沿いのファミリーレストランにいる。十一年、そうしている。ある朝、窓際の席に妻が座っていた。
七十四になる男は、毎朝、市立図書館で新聞の縮刷版を読む。自分の生まれた日から、一日ずつ。四年かけて、まだ昭和四十一年の秋にいる。