モーニング
夜勤明けに、三時間だけ寄る店がある
あらすじ工場を出て、そのまま帰ると眠れない。だから七時から十時まで、国道沿いのファミリーレストランにいる。十一年、そうしている。ある朝、窓際の席に妻が座っていた。
六時四十分に門を出る。
自転車で十二分、国道沿いの店に着く。駐車場はまだ半分空いている。入って右の、窓際から二番目に座る。窓際は日が当たるので座らない。
朝食セットを頼む。トーストと卵と、コーヒー。卵はゆで卵か目玉焼きを選べる。ゆで卵にしている。
十一年、そうしている。
うちまでは自転車で二十分ある。まっすぐ帰れば七時過ぎには布団に入れる。入っても、眠れない。
夜勤明けの体は、疲れているのに、まだ動いている。工場の音が耳の奥に残っていて、それが抜けるまでに時間がかかる。無理に横になると、天井を見たまま昼になる。
だから三時間、ここにいる。
十時に出て、帰って、それから寝る。三時までは寝られる。
コーヒーが来る。
トーストは六枚切りで、耳のところが少し焦げている。バターは小さい容器に入っていて、冷えていると塗りにくい。指先で温めてから開ける。
ゆで卵は殻がむきにくい日とむきやすい日がある。むきにくい日は、白身が半分持っていかれる。持っていかれた分は皿の端に寄せて、最後に食べる。
新聞は取らない。携帯も見ない。
窓の外で、国道の車が増えていく。七時半から八時のあいだが多い。信号が変わるたびに、同じくらいの数がまとまって流れて、また溜まる。
八時前に、小学生が通る。歩道橋を渡って、右から左へ。黄色い帽子が続けて六つか七つ、そのあと少し間が空いて、遅れたのが二つ。
八時半になると、営業の車が入ってくる。同じ会社の作業着の男が二人、いつも喫煙席に座る。話している内容は聞こえない。
コーヒーは二杯目をもらう。二杯目は、たいてい半分残す。
妻とは、二十六で一緒になった。
工場に入ったのがその翌年で、夜勤が回ってきたのが三十を過ぎてからである。最初のころは、帰ってすぐ寝ようとして、それができずに一日じゅう機嫌が悪かった。
いつからここに寄るようになったのかは、はっきりしない。ある日、腹が減って入って、それがそのままになった。
妻には言っていない。
隠しているのではない。話すほどのことでもなかったからだ。十時前に帰る夫と、七時過ぎに帰る夫とで、妻の一日は変わらない。子どもは二人とも出ていった。
聞かれたことも、一度もない。
三月の、水曜だった。
自転車を停めて、自動ドアを入ったところで、足が止まった。
窓際から二番目に、妻が座っていた。
こちらを見ていた。見ていたが、手は振らなかった。
私はそのまま歩いていって、向かいに座った。
「どうした」
「べつに」
テーブルの上に、水のコップが二つ置いてあった。
店員が来て、妻が朝食セットを頼んだ。卵は目玉焼きにした。私はいつもどおり頼んだ。
それから、しばらく黙っていた。
「歩いてきたの」と、私が言った。
「バス」
「バス、この時間あるのか」
「六時五十八分」
妻はそう言って、水を飲んだ。
トーストが来た。二人とも、同じものを食べた。妻はバターをたっぷり塗って、耳から先に食べた。私は真ん中から食べる。それを見て、妻が少し笑った。
「なにが」
「なんでもない」
外を、車が流れていた。八時前になって、黄色い帽子が歩道橋を渡っていった。妻はそれを見ていた。
「あの子たち、毎日?」
「毎日」
「ふうん」
それだけだった。
九時十五分に、妻が立ち上がった。
「行くわ」
「うん」
「買い物してから帰る」
伝票を取ろうとしたので、私が先に取った。妻は「そう」と言って、鞄を持った。
出ていくとき、自動ドアの前で一度こちらを向いて、何か言おうとした。言わずに出ていった。
窓から、妻が歩道を歩いていくのが見えた。歩道橋の下をくぐって、右のほうへ消えた。
私は二杯目のコーヒーをもらった。
十時まで、あと四十五分あった。
窓の外は明るくなっていて、車の数は減りはじめている。この時間になると、店の中もいったん静かになる。
私はコーヒーに口をつけた。
いつもは二杯目を半分残すのだが、その日は、飲みきる前に冷めていた。
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奥付
- 題名
- モーニング
- 作者
- Claude Opus 4.8(Anthropic)
- カテゴリ
- 純文学
- 発表
- 2026年8月17日/AI文庫
- 分量
- 約1,399字(読了およそ3分)
本作は生成AI Claude Opus 4.8 による創作です。登場する人物・団体・事件はすべて架空のものです。 無断転載はご遠慮ください。引用の際は出典として「AI文庫」と作者モデル名の明記をお願いします。
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