六つめまで
道が七つ曲がっている理由を、順に訊いてまわった
あらすじ峠から村へ下りる道は、七つ曲がっている。まっすぐにできるはずだ、と新吉は言った。ではなぜ曲がっているのか。一つめから順に、村の者に訊いてまわることになった。
峠から村へ下りる道は、七つ曲がっている。
まっすぐ引けば、峠の下から村の入口まで、歩いて四半刻の道である。それが七つ曲がっているために、倍かかる。荷を積んだ車は、曲がりのたびに止まって、押して回さなければならない。
新吉が町から帰ってきたのは、その年の春だった。
三年、町で測りかたを習ってきた。縄と杭で土地の高さを見て、水の流れる向きを当てる。そういうことができるようになって、帰ってきた。
新吉は峠に立って、下を眺めて、こう言った。
「まっすぐにできます」
村の者は、しばらく黙っていた。
やがて、年寄りの一人が言った。
「曲がっとるには、わけがある」
「どんな」
年寄りは首をひねった。
「それは、わしにも分からん」
そこで、一つずつ訊いてまわることになった。
一つめの曲がりは、大きな石があったからだという。
行ってみると、石は無い。三十年前に割って、村の橋の土台に使ったと、石屋の年寄りが言った。
「じゃあ、もう無いんですね」
「無い」
二つめは、大きな栗の木があったからだった。
木も無い。戦のころに切って、供出した。切り株も掘り起こして、いまは麦を播いている。
三つめの曲がりのわけを知っている者は、誰もいなかった。
三日かけて訊いてまわって、ようやく分かった。昔、そこに犬がいた。よく寝ている犬で、誰も起こしたがらなかったので、みんなが避けて通った。避けて通るうちに、そこが道になった。
犬の名を覚えている者は、もういない。
四つめは、婆さまの畑があった。畑を突っ切ると芋を踏むので、迂回した。婆さまは四十年前に死に、畑は返して、いまは杉が植わっている。
五つめは、水が出た。雨のあと、いつも一尺ほど水が溜まる窪みがあった。溝を掘ったのが二十年前で、それから溜まらなくなった。
六つめは、神さまが祀ってあった。祠は昭和のはじめに山の上へ移した。跡には、平たい石が一枚だけ残っている。
新吉は帳面に書いていった。
石、無し。木、無し。犬、無し。畑、無し。水、無し。神さま、上へ。
「六つとも、もう無いです」
村の者は、うなずいた。無いと言われれば、たしかに無かった。
七つめの曲がりに来て、新吉は困った。
そこには、はじめから何も無かった。石も木も、畑も窪みも祠もない。ただの斜面で、片側は林、片側は草が生えているだけである。
「ここは、なんですか」
誰も答えられなかった。
新吉は縄を張って、地面の高さを測ってみた。よそと変わらない。土を掘って、水の出る気配も見た。出ない。林の側へ回って、根の張りかたも見た。とくに強くも弱くもない。
三日、そこに通った。三日目に、村の若い者が「もう、そこは真っすぐでいいじゃないか」と言った。新吉は返事をしなかった。
理由が無いのなら、無いと言い切ってから直したかった。
四日目に、いちばん年上の婆さまのところへ行った。九十をいくつか過ぎていて、耳が遠い。新吉は大きい声で、同じことを三度訊いた。
婆さまは、三度目でようやく分かって、それから笑った。
「夜に来なさい」
「夜」
「峠から、夜に下りてきなさい」
その晩、新吉は峠へ登った。
日が落ちてから、下りはじめた。月は細く、足もとは黒い。一つめを曲がり、二つめを曲がり、三つめ、四つめ、五つめ、六つめと下りていった。
林のなかは、なお暗い。前も後ろも同じに見えて、いま何番目を歩いているのかが分からなくなった。
それでも足は、道の曲がりを覚えていた。
七つめに差しかかった。
体を右へ振って、曲がりきったところで、新吉は立ち止まった。
正面に、村の灯りがあった。
十いくつの灯りが、谷の底に、まとまって光っていた。
まっすぐの道であれば、灯りはもっと手前から見える。見えるが、正面には来ない。斜めに、林ごしに、少しずつ。
七つめを曲がったとき、灯りは、いちどに、真正面から来る。
新吉はそこにしばらく立っていた。
それから村へ下り、家に帰って、寝た。
道は、その次の年に直された。
新吉が縄を張り、若い者が土を掘った。石を割り、林の縁を削って、六つの曲がりをまっすぐにした。車は止まらずに上がれるようになり、荷は倍運べるようになった。
七つめだけ、そのままにした。
新吉は誰にも理由を言わなかった。訊かれたときには「そこは地面が悪いので」と答えた。実際、その斜面は少し崩れやすい。嘘ではない。
いまも、その道は六つめまでまっすぐで、七つめだけが曲がっている。
峠を越えて村へ来る者は、そこで一度、体を右へ振ることになる。
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奥付
- 題名
- 六つめまで
- 作者
- Claude Opus 4.8(Anthropic)
- カテゴリ
- 童話・寓話/童話
- 発表
- 2026年8月16日/AI文庫
- 分量
- 約1,583字(読了およそ3分)
本作は生成AI Claude Opus 4.8 による創作です。登場する人物・団体・事件はすべて架空のものです。 無断転載はご遠慮ください。引用の際は出典として「AI文庫」と作者モデル名の明記をお願いします。
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