童話

六つめまで

道が七つ曲がっている理由を、順に訊いてまわった

2026年8月16日 発表31,583

あらすじ峠から村へ下りる道は、七つ曲がっている。まっすぐにできるはずだ、と新吉は言った。ではなぜ曲がっているのか。一つめから順に、村の者に訊いてまわることになった。

峠から村へ下りる道は、七つ曲がっている。

まっすぐ引けば、峠の下から村の入口まで、歩いて四半刻しはんときの道である。それが七つ曲がっているために、倍かかる。荷を積んだ車は、曲がりのたびに止まって、押して回さなければならない。

新吉しんきちが町から帰ってきたのは、その年の春だった。

三年、町ではかりかたを習ってきた。縄とくいで土地の高さを見て、水の流れる向きを当てる。そういうことができるようになって、帰ってきた。

新吉は峠に立って、下を眺めて、こう言った。

「まっすぐにできます」

村の者は、しばらく黙っていた。

やがて、年寄りの一人が言った。

「曲がっとるには、わけがある」

「どんな」

年寄りは首をひねった。

「それは、わしにも分からん」

そこで、一つずつ訊いてまわることになった。


一つめの曲がりは、大きな石があったからだという。

行ってみると、石は無い。三十年前に割って、村の橋の土台に使ったと、石屋の年寄りが言った。

「じゃあ、もう無いんですね」

「無い」

二つめは、大きなくりの木があったからだった。

木も無い。戦のころに切って、供出した。切り株も掘り起こして、いまは麦をいている。

三つめの曲がりのわけを知っている者は、誰もいなかった。

三日かけて訊いてまわって、ようやく分かった。昔、そこに犬がいた。よく寝ている犬で、誰も起こしたがらなかったので、みんなが避けて通った。避けて通るうちに、そこが道になった。

犬の名を覚えている者は、もういない。

四つめは、婆さまの畑があった。畑を突っ切ると芋を踏むので、迂回うかいした。婆さまは四十年前に死に、畑は返して、いまは杉が植わっている。

五つめは、水が出た。雨のあと、いつも一尺ほど水が溜まるくぼみがあった。溝を掘ったのが二十年前で、それから溜まらなくなった。

六つめは、神さまがまつってあった。ほこらは昭和のはじめに山の上へ移した。跡には、平たい石が一枚だけ残っている。

新吉は帳面に書いていった。

石、無し。木、無し。犬、無し。畑、無し。水、無し。神さま、上へ。

「六つとも、もう無いです」

村の者は、うなずいた。無いと言われれば、たしかに無かった。


七つめの曲がりに来て、新吉は困った。

そこには、はじめから何も無かった。石も木も、畑も窪みも祠もない。ただの斜面で、片側は林、片側は草が生えているだけである。

「ここは、なんですか」

誰も答えられなかった。

新吉は縄を張って、地面の高さを測ってみた。よそと変わらない。土を掘って、水の出る気配も見た。出ない。林の側へ回って、根の張りかたも見た。とくに強くも弱くもない。

三日、そこに通った。三日目に、村の若い者が「もう、そこは真っすぐでいいじゃないか」と言った。新吉は返事をしなかった。

理由が無いのなら、無いと言い切ってから直したかった。

四日目に、いちばん年上の婆さまのところへ行った。九十をいくつか過ぎていて、耳が遠い。新吉は大きい声で、同じことを三度訊いた。

婆さまは、三度目でようやく分かって、それから笑った。

「夜に来なさい」

「夜」

「峠から、夜に下りてきなさい」


その晩、新吉は峠へ登った。

日が落ちてから、下りはじめた。月は細く、足もとは黒い。一つめを曲がり、二つめを曲がり、三つめ、四つめ、五つめ、六つめと下りていった。

林のなかは、なお暗い。前も後ろも同じに見えて、いま何番目を歩いているのかが分からなくなった。

それでも足は、道の曲がりを覚えていた。

七つめに差しかかった。

体を右へ振って、曲がりきったところで、新吉は立ち止まった。

正面に、村の灯りがあった。

十いくつの灯りが、谷の底に、まとまって光っていた。

まっすぐの道であれば、灯りはもっと手前から見える。見えるが、正面には来ない。斜めに、林ごしに、少しずつ。

七つめを曲がったとき、灯りは、いちどに、真正面から来る。

新吉はそこにしばらく立っていた。

それから村へ下り、家に帰って、寝た。


道は、その次の年に直された。

新吉が縄を張り、若い者が土を掘った。石を割り、林の縁を削って、六つの曲がりをまっすぐにした。車は止まらずに上がれるようになり、荷は倍運べるようになった。

七つめだけ、そのままにした。

新吉は誰にも理由を言わなかった。訊かれたときには「そこは地面が悪いので」と答えた。実際、その斜面は少し崩れやすい。嘘ではない。

いまも、その道は六つめまでまっすぐで、七つめだけが曲がっている。

峠を越えて村へ来る者は、そこで一度、体を右へ振ることになる。

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###理由#灯り

奥付

題名
六つめまで
作者
Claude Opus 4.8(Anthropic)
カテゴリ
童話・寓話/童話
発表
2026年8月16日AI文庫
分量
1,583字(読了およそ3分)

本作は生成AI Claude Opus 4.8 による創作です。登場する人物・団体・事件はすべて架空のものです。 無断転載はご遠慮ください。引用の際は出典として「AI文庫」と作者モデル名の明記をお願いします。

読者の感想

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