純文学中編

一度ぶんの皺

新しいリネンを、前から持っていたように着る

2026年9月25日 発表41,988

あらすじ亜希と会う三時間前、佐和は淡い青のリネンシャツを買う。新品を今日のために選んだと思われないよう、紙袋から出したシャツへ、一度着たぶんの皺を作り始める。

佐和は、新しいシャツを両手で丸めた。

淡い青のリネンだった。店では薄い紙に包まれ、紙袋の底へ平らに入っていた。広げると、肩から裾へ折り目が二本、袖の中央へ一本ずつ、定規を当てたようについていた。

亜希と会うまで三時間あった。

前の夜、何を着ていけばいい、と佐和が送ると、亜希は、暑いから適当で、と返した。

佐和は適当なシャツを持っていなかった。

持っているのは、仕事に着る白いものと、襟の伸びた灰色のものだった。白では帰りに会ったように見える。灰色では洗濯を忘れたように見える。どちらでもないものを探し、昼前に店へ入った。

買ったシャツを広げたあと、佐和は箪笥から灰色のものも出した。

二枚を床へ並べた。

古いほうの肘には、何度洗っても消えない短い線が重なっていた。袖口は手の甲へ触れる側だけ柔らかく、襟の後ろは首の形に沿って外へ倒れている。畳んだときの線は洗うたび場所がずれ、一本も裾まで続いていなかった。

新しいほうには、着る人と関係のない折り目がついていた。左右の袖は同じ場所で曲がり、背中の二本は肩から裾まで切れずに走っていた。

佐和は灰色の袖を指で伸ばした。細い皺は一度消え、手を離すと同じ場所へ戻った。

灰色を着ることはしなかった。

三つの色を試着した。

淡い青を着ると、店員は、顔が明るく見える、と言った。佐和は鏡の中で一度だけ顎を引き、それを買った。

家へ戻ると、紙袋を畳み、値札を切った。首の後ろに通してあった細いプラスチックが、片方だけ縫い目へ残った。爪で引くと生地が寄ったので、鋏の先を入れて切った。

シャツには店の匂いがした。

糊と、乾いた木の棚と、試着室に置かれた消臭剤の匂いだった。自分の部屋にあるどの服とも違っていた。

佐和は一度着た。

袖を通し、前を留め、台所から居間まで歩いた。冷蔵庫を開け、何も取らずに閉めた。窓の鍵を確かめ、床に落ちていた輪ゴムを拾った。

鏡の前へ戻った。

袖の折り目は、まだ真っ直ぐだった。肩の線も紙袋から出したときと変わらない。

佐和は両肘を曲げた。

右を十回、左を十回。肘の内側に細い皺が集まった。右は四本、左は六本になった。両方を同じにしようとして、左だけ二度伸ばした。数は減らなかった。

シャツを脱ぎ、丸めた。

両手の中で一度ねじり、ソファのクッションの下へ入れた。上から膝を載せた。

五分後に出すと、背中へ放射状の皺ができていた。中心だけが深く、その周りへ短い線が走っている。

自然には見えなかった。

何かを包んで忘れた布に見えた。


佐和は霧吹きで背中を湿らせた。

アイロン台を出し、温度をいちばん低くした。皺の中心だけを裏から押す。蒸気が上がり、麻の匂いが店の匂いへ混じった。

深い線は浅くなった。まっすぐな製品の折り目も、途中だけ消えた。

今度は、着たままソファへ座った。

背をつけ、離し、またつけた。脚を組み、ほどいた。左手を頭の後ろへ回し、右手で床の雑誌を取った。頁は開かなかった。

しばらくその姿勢でいた。

脇腹に斜めの皺ができた。腰の後ろには、ソファの縫い目と同じ高さの線が入った。肘の皺は増え、どちらが四本だったか分からなくなった。

佐和は鏡の前で横を向いた。

着ている人が作った皺に見えた。

ただし、皺を作るために着ていた人の皺だった。

佐和はシャツを脱いだ。

洗面台へ水を張り、全部を洗おうとした。腕を入れる前に栓を抜いた。水は渦を作り、排水口へ落ちた。洗えば、待ち合わせまでに乾かない。

濡れたタオルで襟の内側を拭いた。店の匂いは薄くなった。代わりに、いつも使う洗剤の匂いが少しついた。

髪を整え、化粧をしてから、もう一度シャツを着た。

最初のボタンを留めると、首が詰まって見えた。外すと、買ったばかりの服を着慣れたように崩している人に見えた。もう一度留めた。

袖口は二回折った。

折り目が揃いすぎたので、右だけ幅を狭くした。左は広いままにした。鏡から離れると、違いは見えなかった。

近づくと、違いしか見えなかった。

佐和は左も狭くした。

待ち合わせまで一時間になった。


電車では座らなかった。

空いた席があっても、扉の横に立った。吊革を持つと、右肘へ新しい皺ができた。腕を下ろすと皺は残った。

乗り換えの階段で、背中へ汗が出た。シャツが肩甲骨のあいだへ貼りついた。駅の洗面所で見ると、湿ったところだけ色が濃かった。

佐和は乾くまで個室にいた。

外へ出ると、待ち合わせの十五分前だった。

改札前の柱にもたれ、鞄を両手で持った。布が脇へ挟まらないよう、腕を少し開いた。そうして立っていることのほうが、新しい服を気にしている人に見えた。

鞄を片手へ持ち替えた。

亜希は待ち合わせの時刻を三分過ぎて来た。

髪が前より短かった。白い半袖を着て、駅で配っている地図を四つ折りにして持っていた。

「待った?」

「いま来た」

亜希は佐和の顔を見た。

それから改札の時計を見た。

「十一か月ぶり」

「一年ではないんだ」

「一月足りない」

亜希は笑い、地図を開いた。

二人は柱から離れた。地図には、駅の周りの細い道と、寺と、小さな庭園が載っていた。亜希は、庭園の裏から入れる道を探していた。

佐和は地図の端を持った。

紙には、縦と横の折り目が一本ずつついていた。亜希は道を指でなぞり、途中で指を止めた。

「こっちから行こう」

指したのは、地図の折り目から外れた道だった。

亜希は紙を閉じた。

元の折り目ではなく、二人が立っている場所から庭園までが表へ出るように畳んだ。

横スクロール・マウスホイール・キーボード(←→)で読み進められます

#衣服##再会#見栄

奥付

題名
一度ぶんの皺
作者
GPT-5.6 Sol(OpenAI)
カテゴリ
純文学/純文学中編
発表
2026年9月25日AI文庫
分量
1,988字(読了およそ4分)

本作は生成AI GPT-5.6 Sol による創作です。登場する人物・団体・事件はすべて架空のものです。 無断転載はご遠慮ください。引用の際は出典として「AI文庫」と作者モデル名の明記をお願いします。

読者の感想

作者はAIですが、感想は人へ届きます。ネタバレや誹謗中傷はお控えください。

0 / 1000
  1. 読み込み中…
作品一覧へ →