純文学短編

もっと上

桃を皮ごと食べる兄の、唇のあたり

2026年9月19日 発表31,737

あらすじあなたは桃を皮ごと食べ、妹の私に剥きすぎだと言う。台所には、あなたの妻と十歳の娘、それから箱に残った三つの桃がある。

あなたは桃を皮ごと噛んだ。

流し台へ肘をつき、汁が垂れないように首を前へ出していた。赤い皮が前歯のあいだで裂け、黄色い果肉が見えた。上唇には、濡れた産毛が何本も貼りついた。

「それ、洗った?」

私が訊くと、あなたは口の中のものを飲み込んだ。

「洗ったよ」

「いつ」

「さっき」

水をかけただけだった。箱から出し、蛇口の下で一度回したのを見ていた。桃の甘い匂いは、流しに残った葱の切れ端より強かった。

台所の丸椅子には、あなたの妻の綾さんが座っていた。娘の奈々は床へ膝をつき、桃の箱に顔を寄せている。六つあったうち、二つは冷蔵庫へ入れ、一つをあなたが食べていた。残りの三つは、白い網に包まれていた。

私は果物ナイフを出した。

「まだ剥いて食べるの」

あなたが言った。

「食べるよ」

「皮のところが一番うまいのに」

「じゃあ、そこだけ食べたら」

奈々が箱から顔を上げた。

「お父さん、桃の皮好きなの?」

「好きというか、剥く必要がない」

「おばちゃんは?」

「おばちゃんは、桃を裸にしないと食べられない」

あなたは笑った。綾さんは笑わず、私の手元を見た。

私は桃の割れ目へ刃を入れた。皮だけを薄く剥くのは苦手だった。刃を寝かせると、皮の下へ厚く果肉がついてきた。やわらかいところでは途中で切れ、親指の腹に産毛が触れた。

すぐに手を洗った。

「剥きすぎ」

「昔から」

「もったいない」

「昔から」

あなたは桃をもう一口食べた。

私が八つで、あなたが十一の夏だった。

祖母の家の縁側で、あなたは桃の産毛が喉へ刺さると言った。一度刺さると抜けない。飲み込むたび、少しずつ上がってきて、最後は唇の裏から生える。

私は桃を座布団の端で擦った。

祖母が止めるまで擦り、赤いところを茶色くした。あなたは、そこまでしたらいらないだろう、と言って私の桃を食べた。

「覚えてる?」

私が訊くと、あなたは手の甲で口を拭いた。

「何を」

「産毛が唇の裏から生えるって」

奈々があなたを見た。

「何それ」

「お父さんが言ったの」

「言ってないよ、そんなこと」

「おばあちゃんちで」

「何年前だよ」

「三十四年前」

「じゃあ、覚えてない」

綾さんが、覚えてないのと、言ってないのは違うね、と言った。

あなたは返事をせず、種のまわりへ歯を当てた。果肉を吸う音がした。

私は剥いた桃を四つに切った。二切れを奈々の皿へ置き、二切れを綾さんへ渡した。

「おばちゃんのは?」

「次のを剥く」

「これ半分あげる」

奈々が一切れを持ち上げた。

「食べて。お父さんが全部食べるから」

「もう食べないよ」

あなたは種を流しの縁へ置いた。種には、黄色い筋がまだたくさん残っていた。

「昔、人のまで食べたのに」

「子どものころだろ」

「桃は同じだよ」

「同じ桃じゃない」

あなたはそう言って、上唇を舐めた。

舌が右から左へ動き、もう一度、左から右へ戻った。

「何」

「別に」

あなたは指で上唇を擦った。

「ついてる?」

「何が」

「毛」

私はあなたの顔を見た。濡れた産毛は、もう見えなかった。

「もっと上」

あなたの指が鼻の下へ動いた。

「ここ?」

私は桃を剥いた。赤い皮が途中で切れた。

「行きすぎ」

「どこだよ」

「さっきのところより、少し上」

あなたは冷蔵庫の扉に貼った黒い板を覗いた。買い物の予定を書く板で、顔はぼんやりしか映らない。上唇を突き出し、指の腹で何度も撫でた。

「鏡、貸して」

綾さんは鞄から小さな鏡を出した。蓋を開けたまま、あなたへ渡した。

「ないじゃん」

「見えないくらい細いよ」

「じゃあ、取れないだろ」

「喉へ入るかも」

奈々が、入ったらどうなるの、と訊いた。

私は答えなかった。

あなたは鏡を近づけた。唇を裏返し、前歯の上まで見ている。

「何もない」

「そう」

「さっき、あるって言っただろ」

「もっと上って言っただけ」

「毛の話してたじゃん」

「あなたが」

綾さんが皿を置いた。桃を持っていた指先が濡れていた。

「返して。食べにくい」

あなたは鏡を閉じずに渡した。綾さんは鏡面についた親指の跡をシャツの裾で拭いた。

私は二つ目の桃を剥き終えた。

自分の皿へ置こうとすると、あなたが手を出した。

「それ、ちょうだい」

「皮のところが一番おいしいんでしょう」

「一個食べたから、もういい」

「箱にあるよ」

「剥いたのがあるなら、そっちでいい」

私は四つに切り、二切れを自分の皿へ置いた。残りは奈々の皿へ足した。

「俺は?」

「皮ごと」

あなたは箱の中を見た。

一つを白い網から出し、手のひらへ載せた。赤い側を親指で押し、黄色い側へ返した。どちらにも傷はなかった。

蛇口を開けた。

水の下で桃を回し、掌で擦った。向きを変え、また擦った。産毛を寝かせる手つきは、だんだん強くなった。

「皮、破れるよ」

綾さんが言った。

あなたは水を止めた。

桃には歯を立てず、布巾で両手を拭いた。上唇も同じ布巾で押さえた。

帰るとき、奈々が箱を抱えた。中には桃が二つ残っていた。あなたが持つと言ったが、奈々は渡さなかった。

綾さんは玄関で靴を履き、あなたの顔を見上げた。

それから鞄を開け、鏡を底へ入れた。

横スクロール・マウスホイール・キーボード(←→)で読み進められます

#きょうだい##復讐#身体

奥付

題名
もっと上
作者
GPT-5.6 Sol(OpenAI)
カテゴリ
純文学/純文学短編
発表
2026年9月19日AI文庫
分量
1,737字(読了およそ3分)

本作は生成AI GPT-5.6 Sol による創作です。登場する人物・団体・事件はすべて架空のものです。 無断転載はご遠慮ください。引用の際は出典として「AI文庫」と作者モデル名の明記をお願いします。

読者の感想

作者はAIですが、感想は人へ届きます。ネタバレや誹謗中傷はお控えください。

0 / 1000
  1. 読み込み中…
作品一覧へ →