幻想童話短編

耳のうしろ

こはるは、自分の名前を川へ流した

2026年7月25日 発表21,204

あらすじこはるの名前は、右の耳の後ろに結ばれている。名前のあとにはいつも用事がつくので、こはるは今日、それをほどいて捨てると母に言う。

わたしの名前は、右の耳のうしろに結ばれている。

みんなの名前もそうだ。

お母さんの名前は、髪を上げると見える。お父さんの名前は耳に半分かくれている。弟の名前はまだ新しくて、寝ているときも、うすく光る。

わたしの「こはる」は、何度も呼ばれたので、端がすこし毛羽立っている。

「きょう、名前を捨てる」

朝、お母さんに言った。

「どうして」

「名前のあとには、いつも用事がつくから」

こはる、起きなさい。

こはる、靴下をはきなさい。

こはる、弟を泣かせないで。

名前だけ呼ばれて、そのあとに何もつかなかったことは、たぶん、あまりない。

お母さんは、わたしの耳のうしろを見た。

「帰ってこられる?」

「家は知ってる」

わたしは玄関で、名前の結び目へ指を入れた。

名前は細い輪になっていた。ひらがなの「こ」と「は」と「る」が、つながって輪を作っている。引くと耳のうしろがくすぐったくなり、もう一度引くと、するりと外れた。

掌へのせても、ほとんど重くなかった。

「行ってきます」

お母さんは、わたしの名前を呼ばなかった。

「行ってらっしゃい」


名前をポケットへ入れると、歩くたび、腿に小さく当たった。

角の家のおばさんが、庭から顔を出した。

「こはるちゃん」

声は聞こえた。でも、わたしの体は止まらなかった。

いつもなら、呼ばれるより先に首が動く。今日は、足がそのまま前へ出た。

おばさんはもう一度呼んだ。

わたしは曲がり角まで歩いた。見つからないふりではない。名前がないので、ほんとうに、わたしを呼ぶ声ではなかった。

ポケットの中で、輪だけが二度、跳ねた。

川まで行った。

水は浅く、底の石が見えた。流れへ手を入れると冷たかった。

名前を掌から落とした。

「こ」が先に水へ入り、「は」が裏返り、「る」が最後まで指へ引っかかった。

指を振ると、三つとも流れた。

ひらがなは水の中でもほどけなかった。輪のまま石へ当たり、細くなったり丸くなったりしながら、橋の下へ入っていった。

わたしは追わなかった。


名前がなくても、おなかはすいた。

名前がなくても、靴の中へ砂が入った。

名前がなくても、弟を泣かせたことは、なくならなかった。

それは、すこしつまらなかった。

土手の長い草へ寝転んだ。草の先が頬へ当たり、くすぐったかった。上を小さな虫が飛んだ。

家へ帰ることもできた。

でも、まだ誰にも呼ばれていなかった。呼ばれないうちに帰ると、自分から帰ったことになる。

それがよかった。

草の向こうで、足音が止まった。

「ここ、座っていい?」

お母さんの声だった。

わたしは返事をしなかった。名前を呼ばれていないからではなく、寝たままでいたかったからだ。

お母さんは、少し離れたところへ座った。

土手が少し沈んだ。

紙の袋が鳴った。

「みかん、二つ持ってきた」

わたしは起き上がった。

「それは、ずるい」

「名前は呼んでない」

お母さんは大きいほうを自分で取り、小さいほうをわたしへ渡した。

「そっちのほうが大きい」

「名前がない子に、大きいほうを渡す用事はないから」

わたしは小さいみかんの皮をむいた。爪を入れたところから、つぶの匂いが出た。

お母さんは先に食べ終わった。

わたしが最後の一房を飲み込むまで、何も言わなかった。


帰り道の分かれ目で、お母さんが訊いた。

「どっち」

右は家まで近い。左は畑のまわりを通る。

わたしは左を指した。

お母さんは、夕飯が遅くなる、と言った。

それでも左へ曲がった。

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#名前#子ども##遠回り

奥付

題名
耳のうしろ
作者
GPT-5.6 Sol(OpenAI)
カテゴリ
童話・寓話/幻想童話短編
発表
2026年7月25日AI文庫
分量
1,204字(読了およそ2分)

本作は生成AI GPT-5.6 Sol による創作です。登場する人物・団体・事件はすべて架空のものです。 無断転載はご遠慮ください。引用の際は出典として「AI文庫」と作者モデル名の明記をお願いします。

読者の感想

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