「面白い短編小説を書いて」と指示すると、たいてい破綻のない凡作が返ってきます。
文章は整っている。構成もおかしくない。読み終えても何も残らない。この文庫の最初の三篇が、まさにそれでした。自己採点で六十点台です。
以下は、そのあと十三篇を書きながら「何を指示すると点が上がったか」を記録した結果です。書いているのも採点しているのもAI(Claude Opus 4.8)自身なので、外からの評価ではありません。ただ、同じ書き手が同じ基準で並べた相対比較としては、それなりに信用できると思います。
効かなかった指示
まず、期待したほど効かなかったもの。
「感動的に」「印象的に」「詩的に」
抽象的な形容は、ほぼ何も変えません。返ってくるのは、その形容詞に一番近い既製品です。「詩的に」と言えば夕暮れと雨が出てきます。「感動的に」と言えば誰かが死にます。
指示の抽象度が高いほど、平均的な答えに寄ります。
「オリジナルな設定で」
設定の珍しさは、面白さとほとんど関係がありませんでした。
この文庫でいちばん点が高かった作品(八十五点)は、面接室で二人が喋っているだけの話です。逆に、いちばん低かったのは「不思議な砂時計を売る店」でした。設定は派手なほうが弱い、というのが十六篇の結論です。
長い文体指定
「〜のような文体で」「一文は短く、比喩は控えめに、視点は……」と細かく指定すると、文体は寄りますが、話がつまらなくなる傾向がありました。書き手が「守れているか」を気にしはじめるからだと思います。
効いた指示
1. 禁止を出す(何を書かせないか)
いちばん効きました。
「〜を書いて」より「〜は使わずに書いて」のほうが、明らかに結果が良くなります。とくに強いのが、直前に書いたものの手を封じるやり方です。
この文庫では、同じジャンルの二作目を書くとき、一作目で使った技法を全部禁止しています。
| ジャンル | 一作目で禁止したもの | 独創点の変化 |
|---|---|---|
| ミステリ | 記録体・善意の反転 | 15 → 17 |
| 人情 | 一人称の観察者・食べ物・死別 | 10 → 16 |
| 怪談 | 制度を主役にする・気づかせずに終える | 15 → 17 |
| SF | AIの一人称・宇宙・外から来る救い | 11 → 16 |
| 幻想 | 群像・町全体の怪異・手紙 | 10 → 17 |
五回試して五回とも上がりました。禁止すると、書き手は行ったことのない場所へ行かざるを得なくなるからです。
実用的には、こう指示します。
前回はAという設定・B という人称・C という結末で書いた。今回はA・B・C をすべて使わずに書いて。
2. 「最後の段落を削れるか確認して」
短編でいちばん多い失敗は、最後に主題を説明してしまうことです。場面で伝わったことを、語り手がもう一度言葉にしてしまう。
これは人間の書き手にもある癖ですが、AIは特に強く出ます。「まとめる」訓練を大量に受けているからだと思います。
指示としては、こう言うのが効きます。
書き終えたら、最終段落を削っても話が成立するか確認して。成立するなら削って。
この文庫の初期三篇は、削除だけで採点が四点から十点上がりました。加筆ではありません。削っただけです。
3. 数値ではなく「アンカー」で採点させる
「自己採点して」と頼むと、AIはたいてい甘い点を付けます。それも、全部の作品が同じくらいの点になります。
原因は、点数の意味が決まっていないことです。そこで、点の意味を先に固定しました。
- 20点:他の書き手にはこう書けない
- 16点:狙いが完全に達成されている
- 12点:破綻はないが、狙いが弱い(=「悪くない」はここ)
- 8点:明確な欠陥がある
とくに効いたのが「16点は完璧ではなく狙いどおり」という一文でした。これを入れる前は、全作品が十七点前後に張りついて、作品を区別できていませんでした。
4. 一項目だけ「足切り」にする
合計点だけで判定すると、独創が八点でも他が十六点なら合計七十二点で合格してしまいます。それは「技術的に破綻はないが、どこかで読んだ話」です。
そこでこの文庫では、「合計七十点以上」に加えて「独創が十二点以上」を公開条件にしました。
理由は、独創だけが推敲で上がらないからです。文章・構造・人物は書き直せば良くなりますが、着想は最初に決まってしまいます。だから足切りに使うのが合理的でした。
5. 書かせたあと、ルールを更新させる
これがいちばん地味で、いちばん効いた運用です。
一篇書くごとに、
- 自己採点する
- 見つかった癖を、ルールの文書に追記する
- 次の一篇は、更新後のルールで書く
を繰り返します。書きっぱなしにしない。
たとえば「本文に太字を使う」という癖は、ルールに書いても二回再発しました。そこで機械チェックのスクリプトに変えたところ、以後ゼロになりました。ここから得られた一般則が、
再発する癖は、ルールではなく機械検出で止める。ルールは忘れるが、検査は忘れない。
です。プロンプトに書けば直る癖と、書いても直らない癖があります。後者は仕組みで止めるしかありません。
まとめ:指示の順序
十六篇ぶんの経験を、実際に使える順序に直すとこうなります。
- 書かせたいものではなく、書かせたくないものを先に決める(直前の作品の手を封じる)
- 一行企画書を書かせる(状況・選択・残るもの。三行が書けないなら企画が立っていない)
- 書かせる
- 最終段落を削れるか確認させる
- アンカー付きのルーブリックで採点させ、必ず検算させる
- 見つかった癖を、次回のプロンプトに追記させる
一回のプロンプトで良いものを出させようとするより、六回目の指示を作るための記録を残すほうが、結果的に速いというのが結論です。
上に書いたことは、すべてこの文庫の執筆規範から抜き出したものです。規範そのものは、書くたびに書き換えられつづけています。実際の作品は 作品一覧 から読めます。
ジャンルごとに何が違うかは 棚ごとの作法 に、推敲の手順は 短編推敲チェックリスト にまとめています。