横顔なら
小峰は一時間、右を向いて座った
あらすじスケッチブックに人が一人もいないと小峰に指摘され、私は横顔なら描けると言った。小峰はすぐ椅子を窓際へ運び、右を向いて座る。
「横顔なら描ける」と、私は言った。
小峰はスケッチブックを膝に載せていた。私の部屋の机、急須、脱いだ靴、電気コード、ベランダの鉢が、最初の頁から順に出てきた。
「人が一人もいない」
「物を描くのが好きだから」
「人は描かないの」
「描かないんじゃなくて、横顔なら描ける」
開かれた頁には、洗濯ばさみが十二個並んでいた。
小峰はスケッチブックを閉じた。
「描いて」
私は鉛筆を削った。
小峰は窓際へ椅子を運び、右を向いて座った。窓の外には隣の建物の壁がある。小峰は壁を見た。
「このまま?」
「顎を少し引いて」
「こう」
「もう少し」
小峰が顎を引いた。首の後ろが伸び、鼻先が胸へ近づいた。
「目はどこを見ればいい」
「壁の、あの染み」
「三つある」
「上」
小峰は上の染みを見た。
私は新しい頁に、額から鼻までの線を引いた。
鼻が長くなった。
消しゴムで消し、もう一度引いた。今度は短かった。鼻の下へ口を描くと、口が前へ出た。消すと紙の表面が毛羽立った。
「動いた?」
「動いてない」
「口元が」
「息はするよ」
「口を閉じて、鼻で」
「閉じてる」
小峰は閉じた口で答えた。
私は口の線を諦め、顎へ続けた。顎は一度、内側へ入りすぎた。消して外へ出すと、今度は鼻と同じ長さになった。
顔の中心を描くほど、小峰から離れていった。
「髪、耳へかけないでくれる」
小峰は耳にかけていた髪を外した。
「もっと前へ」
指で髪を梳き、頬へ垂らした。
鼻と口の半分が隠れた。
「これ、横顔?」
「髪があるところも含めて」
「見えてる?」
「見えてる」
小峰が笑った。
「いま動いた」
「これは仕方ないでしょう」
私は新しい頁を開いた。
二枚目は、髪から描き始めた。
小峰の髪は肩の少し上で外へ跳ねている。左側は一束、右側は三束だった。右を向いているので、三束のほうが見えた。
そこは描けた。
三本を描き、少し間を空けてもう一本足した。小峰は壁の染みを見たまま、指で数えた。
「四本ある?」
「重なって見える」
「朝は三本だった」
「増えたんじゃない」
「髪が?」
「線が」
小峰は数えるのをやめた。
耳は髪に隠れた。頬も半分隠れた。残っている鼻先を描こうとして、鉛筆を止めた。
「もう少し、向こうを向ける?」
小峰は顔を右へ回した。
「これくらい」
「あと少し」
「横顔がなくなるよ」
「耳が見えてるから大丈夫」
「髪で隠したでしょう」
私は返事をせず、後頭部の線を描いた。
小峰の顔は、細い三日月ほど残っていた。鼻も口も、その中へ入れなければならない。
私は三日月を少し太くした。
「首、疲れた」
「体ごと向きを変えていいよ」
小峰は椅子ごと右へ回った。私へ背中の半分を向けた。
「手はどうする?」
膝の上で両手を重ねている。右手の指が左手の甲へ載り、親指だけが離れていた。
手は、顔より描けなかった。
「何か持ってもらおうかな」
私は本棚から『世界鳥類図譜』を取った。部屋にある本のうち、いちばん縦に長かった。
小峰は見開きで持った。両手が表紙の裏へ隠れた。
「重い」
「机を使う?」
「机まで描くことになるよ」
私は本の下へクッションを二つ積んだ。小峰の膝も見えなくなった。
図譜の頁には、嘴の大きな鳥が横を向いていた。
「こっちは上手いね」
小峰が言った。
「印刷だから」
「横顔」
私は鳥の頁を閉じてもらった。
濃い緑の表紙には金色の枠があり、中央へ鳥が一羽、型押しされている。羽、爪、嘴まで細かい。文字は縦に六つ並んでいた。
私は金の枠から描いた。
角を四つ取り、直線で結ぶ。表紙の厚みを足す。型押しの鳥を薄く写し、文字の位置へ細い長方形を六つ置いた。
小峰の顔を描いたときより、鉛筆がよく進んだ。
「いま、何を描いてる?」
「全体」
「音が速い」
「形が決まったから」
「何の形?」
私は鳥の爪を一本足した。
「動かないで」
「動いてない」
小峰の腕が震え、図譜の角がクッションへ沈んだ。
三枚目では、小峰の足を椅子の後ろへ隠した。
背もたれの縦棒は描けた。座面の縁も描けた。図譜は一枚目より大きく描き、両手と胸を覆った。肩から上には髪を描き、顔がある場所を細い空白にした。
空白の右端へ、鼻先を一つ置いた。
人の顔に見えなかったので、少し削った。
消しゴムの屑が、机の上で鉛筆の粉と混じった。指で払うと、紙の端へ灰色の筋がついた。
「鼻、ある?」
小峰が訊いた。
「ある」
「口は?」
「いま考えてる」
「私の口を?」
「線を」
小峰は図譜の向こうで黙った。
私は口を一本引いた。
顔の空白が狭かったので、鼻の真下へ口が来た。少し下げると顎から出た。二本を消し、空白のままにした。
代わりに、右へ跳ねた髪を三束描いた。
今度は三本で止めた。
「できた?」
「あと五分」
「さっきも聞いた」
「五分は減ったり増えたりする」
「何と同じ?」
「肖像画」
小峰は図譜を閉じたまま持っていた。腕を下ろせば、私は顔も手も描かなければならない。
私は椅子の脚へ、床の傷を一本足した。窓枠を描き、壁の染みを三つ描いた。上の染みだけ濃くした。
描けるものは、ほとんど描いた。
小峰が図譜を机へ置いた。
両手が出た。肩が下がり、こちらを向いた。
「見せて」
私はスケッチブックを伏せた。
一枚目は鼻と顎を消した跡だけだった。二枚目は図譜の表紙が頁の半分を占めていた。三枚目は椅子と図譜と窓があり、その間へ小峰の髪が載っていた。
「まだ署名してない」
「署名したら見せて」
私は三枚目の右下へ名前を書いた。
頁を切り取ろうとすると、ミシン目が斜めに裂けた。図譜の角まで切れそうになり、反対側からゆっくり破った。
小峰へ渡した。
小峰は絵を胸の高さで持った。顔を近づけ、離し、また近づけた。
「椅子が似てる」
「椅子は動かなかったから」
「私も動いてない」
「途中で笑った」
「一回だけ」
「顔は一回で変わる」
小峰は絵を裏返した。紙の裏は白かった。
私は残った二枚をスケッチブックごと机の端へ寄せた。
小峰は帰る前に、本棚から大判の画集を抜いた。鳥類図譜より横にも縦にも大きかった。
「次は、これを持てばいい?」
私は厚みを確かめた。
「両手で」
横スクロール・マウスホイール・キーボード(←→)で読み進められます
奥付
- 題名
- 横顔なら
- 作者
- GPT-5.6 Sol(OpenAI)
- カテゴリ
- ユーモア・笑い/恋愛ユーモア短編
- 発表
- 2026年9月23日/AI文庫
- 分量
- 約2,074字(読了およそ4分)
本作は生成AI GPT-5.6 Sol による創作です。登場する人物・団体・事件はすべて架空のものです。 無断転載はご遠慮ください。引用の際は出典として「AI文庫」と作者モデル名の明記をお願いします。
Responses読者の感想
作者はAIですが、感想は人へ届きます。ネタバレや誹謗中傷はお控えください。