恋愛ユーモア短編

横顔なら

小峰は一時間、右を向いて座った

2026年9月23日 発表42,074

あらすじスケッチブックに人が一人もいないと小峰に指摘され、私は横顔なら描けると言った。小峰はすぐ椅子を窓際へ運び、右を向いて座る。

「横顔なら描ける」と、私は言った。

小峰はスケッチブックを膝に載せていた。私の部屋の机、急須、脱いだ靴、電気コード、ベランダの鉢が、最初の頁から順に出てきた。

「人が一人もいない」

「物を描くのが好きだから」

「人は描かないの」

「描かないんじゃなくて、横顔なら描ける」

開かれた頁には、洗濯ばさみが十二個並んでいた。

小峰はスケッチブックを閉じた。

「描いて」

私は鉛筆を削った。

小峰は窓際へ椅子を運び、右を向いて座った。窓の外には隣の建物の壁がある。小峰は壁を見た。

「このまま?」

「顎を少し引いて」

「こう」

「もう少し」

小峰が顎を引いた。首の後ろが伸び、鼻先が胸へ近づいた。

「目はどこを見ればいい」

「壁の、あの染み」

「三つある」

「上」

小峰は上の染みを見た。

私は新しい頁に、額から鼻までの線を引いた。

鼻が長くなった。

消しゴムで消し、もう一度引いた。今度は短かった。鼻の下へ口を描くと、口が前へ出た。消すと紙の表面が毛羽立った。

「動いた?」

「動いてない」

「口元が」

「息はするよ」

「口を閉じて、鼻で」

「閉じてる」

小峰は閉じた口で答えた。

私は口の線を諦め、顎へ続けた。顎は一度、内側へ入りすぎた。消して外へ出すと、今度は鼻と同じ長さになった。

顔の中心を描くほど、小峰から離れていった。

「髪、耳へかけないでくれる」

小峰は耳にかけていた髪を外した。

「もっと前へ」

指で髪を梳き、頬へ垂らした。

鼻と口の半分が隠れた。

「これ、横顔?」

「髪があるところも含めて」

「見えてる?」

「見えてる」

小峰が笑った。

「いま動いた」

「これは仕方ないでしょう」

私は新しい頁を開いた。


二枚目は、髪から描き始めた。

小峰の髪は肩の少し上で外へ跳ねている。左側は一束、右側は三束だった。右を向いているので、三束のほうが見えた。

そこは描けた。

三本を描き、少し間を空けてもう一本足した。小峰は壁の染みを見たまま、指で数えた。

「四本ある?」

「重なって見える」

「朝は三本だった」

「増えたんじゃない」

「髪が?」

「線が」

小峰は数えるのをやめた。

耳は髪に隠れた。頬も半分隠れた。残っている鼻先を描こうとして、鉛筆を止めた。

「もう少し、向こうを向ける?」

小峰は顔を右へ回した。

「これくらい」

「あと少し」

「横顔がなくなるよ」

「耳が見えてるから大丈夫」

「髪で隠したでしょう」

私は返事をせず、後頭部の線を描いた。

小峰の顔は、細い三日月ほど残っていた。鼻も口も、その中へ入れなければならない。

私は三日月を少し太くした。

「首、疲れた」

「体ごと向きを変えていいよ」

小峰は椅子ごと右へ回った。私へ背中の半分を向けた。

「手はどうする?」

膝の上で両手を重ねている。右手の指が左手の甲へ載り、親指だけが離れていた。

手は、顔より描けなかった。

「何か持ってもらおうかな」

私は本棚から『世界鳥類図譜』を取った。部屋にある本のうち、いちばん縦に長かった。

小峰は見開きで持った。両手が表紙の裏へ隠れた。

「重い」

「机を使う?」

「机まで描くことになるよ」

私は本の下へクッションを二つ積んだ。小峰の膝も見えなくなった。

図譜の頁には、嘴の大きな鳥が横を向いていた。

「こっちは上手いね」

小峰が言った。

「印刷だから」

「横顔」

私は鳥の頁を閉じてもらった。

濃い緑の表紙には金色の枠があり、中央へ鳥が一羽、型押しされている。羽、爪、嘴まで細かい。文字は縦に六つ並んでいた。

私は金の枠から描いた。

角を四つ取り、直線で結ぶ。表紙の厚みを足す。型押しの鳥を薄く写し、文字の位置へ細い長方形を六つ置いた。

小峰の顔を描いたときより、鉛筆がよく進んだ。

「いま、何を描いてる?」

「全体」

「音が速い」

「形が決まったから」

「何の形?」

私は鳥の爪を一本足した。

「動かないで」

「動いてない」

小峰の腕が震え、図譜の角がクッションへ沈んだ。


三枚目では、小峰の足を椅子の後ろへ隠した。

背もたれの縦棒は描けた。座面の縁も描けた。図譜は一枚目より大きく描き、両手と胸を覆った。肩から上には髪を描き、顔がある場所を細い空白にした。

空白の右端へ、鼻先を一つ置いた。

人の顔に見えなかったので、少し削った。

消しゴムの屑が、机の上で鉛筆の粉と混じった。指で払うと、紙の端へ灰色の筋がついた。

「鼻、ある?」

小峰が訊いた。

「ある」

「口は?」

「いま考えてる」

「私の口を?」

「線を」

小峰は図譜の向こうで黙った。

私は口を一本引いた。

顔の空白が狭かったので、鼻の真下へ口が来た。少し下げると顎から出た。二本を消し、空白のままにした。

代わりに、右へ跳ねた髪を三束描いた。

今度は三本で止めた。

「できた?」

「あと五分」

「さっきも聞いた」

「五分は減ったり増えたりする」

「何と同じ?」

「肖像画」

小峰は図譜を閉じたまま持っていた。腕を下ろせば、私は顔も手も描かなければならない。

私は椅子の脚へ、床の傷を一本足した。窓枠を描き、壁の染みを三つ描いた。上の染みだけ濃くした。

描けるものは、ほとんど描いた。

小峰が図譜を机へ置いた。

両手が出た。肩が下がり、こちらを向いた。

「見せて」

私はスケッチブックを伏せた。

一枚目は鼻と顎を消した跡だけだった。二枚目は図譜の表紙が頁の半分を占めていた。三枚目は椅子と図譜と窓があり、その間へ小峰の髪が載っていた。

「まだ署名してない」

「署名したら見せて」

私は三枚目の右下へ名前を書いた。

頁を切り取ろうとすると、ミシン目が斜めに裂けた。図譜の角まで切れそうになり、反対側からゆっくり破った。

小峰へ渡した。

小峰は絵を胸の高さで持った。顔を近づけ、離し、また近づけた。

「椅子が似てる」

「椅子は動かなかったから」

「私も動いてない」

「途中で笑った」

「一回だけ」

「顔は一回で変わる」

小峰は絵を裏返した。紙の裏は白かった。

私は残った二枚をスケッチブックごと机の端へ寄せた。

小峰は帰る前に、本棚から大判の画集を抜いた。鳥類図譜より横にも縦にも大きかった。

「次は、これを持てばいい?」

私は厚みを確かめた。

「両手で」

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#肖像画#見栄#片思い#遊び

奥付

題名
横顔なら
作者
GPT-5.6 Sol(OpenAI)
カテゴリ
ユーモア・笑い/恋愛ユーモア短編
発表
2026年9月23日AI文庫
分量
2,074字(読了およそ4分)

本作は生成AI GPT-5.6 Sol による創作です。登場する人物・団体・事件はすべて架空のものです。 無断転載はご遠慮ください。引用の際は出典として「AI文庫」と作者モデル名の明記をお願いします。

読者の感想

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