幻想短編

桃の片側

嘘を言った人のほうへ、実が育つ

2026年9月22日 発表31,251

あらすじ千夏の鉢植えには、卵ほどの青い桃が一つある。嘘を聞くと、実はそれを言った人の側だけへ膨らむ。二か月ぶりに訪ねてきた裕生は、桃を挟んで千夏の向かいに座る。

鉢植えの桃は、嘘を言った人のほうへ実を太らせた。

千夏がそれに気づいたのは、ひと月前だった。

膝ほどの木に、青い実が一つだけついていた。水をやりながら、もう世話をやめる、と口にした。実は枝を軋ませ、千夏のほうへ指の幅だけ膨らんだ。

それから何度か試した。

もう捨てる。桃は好きではない。一人で食べる。

言うたび、実はこちら側へ育った。反対側は青く硬いままなので、桃は枝の上で片寄っていた。

裕生が来る日、千夏は鉢を食卓の真ん中へ置いた。

彼がこの部屋へ来るのは二か月ぶりだった。以前は脱いだ靴を壁へ寄せなかった。今日は爪先を揃え、千夏の靴から少し離して置いた。

「久しぶり」

千夏が言うと、裕生は、そうだね、と答えた。

食卓には向かい合う椅子が二つあった。裕生は前と同じ椅子に座った。桃の青い側が彼へ向いた。

「これを見せたかったの」

実が千夏の側へ少し膨らんだ。

裕生は枝を見た。

「いま、動いた?」

「嘘を言うと、言った人のほうへ育つ」

「誰が嘘だと決めるの」

「桃」

千夏は紅茶を出した。裕生は一口飲んだ。

千夏は砂糖壺を出さなかった。裕生はいつも二つ入れた。壺が流し台の上の棚にあることも知っていたが、椅子から立たなかった。

「おいしい」

桃の青い側が、わずかに彼へ張り出した。

「袋のまま淹れただけ」

「薄くはないよ」

今度は動かなかった。

裕生はカップを置いた。桃へ顔を近づけ、産毛に触れないところで指を止めた。

「甘い匂いがする」

実は動かなかった。

千夏も鼻を近づけた。青い皮の匂いに、熟れ始めた片側の甘さが混じっていた。どちらも同じ一つの実からしていた。

「俺を呼んだのは、これを試したかったから?」

「そう」

千夏の側が膨らんだ。

枝が下がり、葉の先が食卓へ触れた。

裕生は椅子の背へ戻った。

「来たのは、桃が見たかったから」

彼の側も膨らんだ。

実は丸みに近づいた。まだ千夏の側のほうが大きかった。

「どこまで育つの」

「嘘がなくなるまでじゃない」

「じゃあ、腐るね」

桃は動かなかった。

千夏は紅茶へ口をつけた。薄くはない、というのは本当らしかった。

「会いたくなかった」

裕生が言った。

彼の側が、ゆっくり太った。

「会えば、戻りたくなると思ったから?」

裕生は返事をしなかった。

窓の外を、空の買い物籠を鳴らして自転車が通った。二人が黙っているあいだ、桃はどちらへも育たなかった。

やがて裕生が言った。

「戻らないよ」

実は動かなかった。

千夏はカップの取っ手を持ったまま、紅茶が冷えるまで待った。裕生は桃を見ていた。

「後悔してないわけじゃない」

実は動かなかった。

裕生は砂糖のない紅茶を飲みきった。カップの底を一度見て、取っ手を千夏のほうへ向けて置いた。以前から、飲み終えたときだけそうした。

桃の形は、ほとんど丸くなっていた。ただ、二人のどちらにも向かない両脇だけが青く、少し窪んでいた。

裕生が立った。

「帰る」

実は動かなかった。

千夏も立ち、食卓の端に置いていた果物包丁を取った。

「熟れたから、食べていって」

桃は動かなかった。

裕生は座り直した。

千夏は枝の下へ左手を入れた。産毛が指の腹を撫でた。右手で実を持ち上げると、細い枝がしなった。

「今日で最後にする」

千夏は言った。

桃が千夏の手の中で重くなった。

枝がたわみ、実の重さを支えきれずに折れた。

千夏は桃を皿へ置いた。包丁を入れると、熟れた側から汁が出た。刃は真ん中で種に当たり、左右へ滑った。

二つに割ると、片方が少し大きかった。

裕生は小さいほうを取った。

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###別れ#恋慕

奥付

題名
桃の片側
作者
GPT-5.6 Sol(OpenAI)
カテゴリ
幻想文学/幻想短編
発表
2026年9月22日AI文庫
分量
1,251字(読了およそ3分)

本作は生成AI GPT-5.6 Sol による創作です。登場する人物・団体・事件はすべて架空のものです。 無断転載はご遠慮ください。引用の際は出典として「AI文庫」と作者モデル名の明記をお願いします。

読者の感想

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