怪談

戸締まり

確かめたはずの記憶が、いちばん薄い

2026年8月9日 発表31,539

あらすじ寝る前に鍵を確かめる。確かめたのに、確かめた記憶だけが薄い。だからもう一度見に行く。回数は、月ごとに増えていった。

寝る前に、鍵を確かめる。

サムターンを右へ回しきって、指を離す。ドアノブを引く。動かない。それで終わりのはずだった。

去年の秋ごろから、それで終わらなくなった。

布団に入って、目を閉じる。三十秒くらい経ってから、確かめたかどうかが分からなくなる。確かめたのは覚えている。指の感触も、ノブを引いたときの、かちりとも言わない手ごたえも覚えている。

覚えているのに、それがいつのことだったかが薄い。

昨日のことのようにも、さっきのことのようにも思える。思えるのに、確信がない。

だから、もう一度見に行く。

鍵はかかっている。当たり前だ。私は確かめたのだから。

布団に戻る。三十分くらいは平気でいられる。それから、また薄くなる。


十月は、一晩に二回だった。

十一月に三回になり、十二月には四回になった。数えるようになったのは、多すぎると自分で思ったからだ。手帳の隅に、正の字で書いていった。

年が明けて、五回になった。

友人に話したことがある。笑って、「わたしもある」と言われた。「ガス栓とかね」と。それで終わりにした。私のとは違う気がしたが、どこがどう違うのかを説明できなかった。

心療内科に行こうかと考えた。行かなかった理由は、症状を説明する自信がなかったからだ。

確認できないのではない。確認した記憶だけが、他の記憶より薄い。

寝る前に歯を磨いたかどうかは、迷わない。テレビを消したかも、迷わない。鍵だけが薄い。それを言葉にして、通じる気がしなかった。

二月に、鍵を替えた。

新しいのは、つまみが大きくて、回すと重い音がする。これなら覚えていられると思った。

替えた晩、私は一回で寝られた。

次の晩は、二回だった。

三日目には、元に戻った。


三月の、雨の降っていた夜。

四回目の確認に立ったとき、玄関のドアが、細く開いていた。

チェーンはかかっていない。サムターンは横を向いている。開いている。

私は動けなかった。廊下の光が、床の上に細長く伸びていた。その光の帯の幅を、いまでも思い出せる。指三本ぶんくらいだった。

三回目に見たとき、鍵はかかっていた。かかっていたと言い切れる。三回目は、他の回よりはっきり覚えている。ノブを引いて、動かなくて、それで安心して布団に戻った。

そのあいだ、私はずっと部屋にいた。

ドアを閉めて、鍵をかけた。手が震えていたので、二度失敗した。三度目でかかった。

その夜は、朝まで起きていた。


四月から、確認の回数が減った。

減った理由は、私にははっきりしている。確認しても意味がないと分かったからである。

かかっていることを確かめても、そのあと開くのなら、確かめる意味がない。かからないのではなく、私が確かめた「あと」に開く。だとしたら、何回確かめても同じである。

理屈がついたので、私は少し楽になった。

いまは、一回だけ確かめる。

回して、引いて、動かないことを見る。それから布団に入る。薄くなっても、起きない。

そのかわり、ひとつ習慣が増えた。

寝る前に、玄関の内側に、椅子を置く。ダイニングの椅子で、背もたれのあるやつだ。ドアの内側に、背を向けて寄せておく。

こうしておくと、開いたときに音がする。

音がしたら、私は起きる。起きて、閉めて、また椅子を寄せる。それだけのことだ。二月から数えて、音がしたのは六回ある。六回とも、閉めた。

慣れれば、なんということもない。

ときどき、友人が泊まりに来る。玄関の椅子を見て、「なにこれ」と聞かれる。私は「置き場所がなくて」と答える。

友人は納得する。実際、この部屋は狭い。


先週、母が来た。

一泊して、朝、帰りぎわに玄関で靴を履きながら、椅子を見た。

「これ、危ないよ。地震のとき、出られなくなる」

「そうだね」

「どかしなさい」

「うん」

母が帰ってから、私は椅子をどかした。

どかして、ダイニングに戻して、四本の脚を床にきちんとつけた。それから、しばらくその椅子を見ていた。

夜になって、私は椅子を玄関に戻した。

戻すとき、床にうっすらと跡がついているのに気づいた。脚の位置に、四つ。毎晩同じ場所に置いていたので、その部分だけ、ほこりの色が違っている。

私は椅子の脚を、その四つの跡に合わせて置いた。

ぴったり合った。合ったときに、少しほっとした。

ほっとしたことのほうを、私はしばらく考えていた。

明日も、同じ場所に置くのだと思う。

横スクロール・マウスホイール・キーボード(←→)で読み進められます

#戸締まり#反復#一人暮らし#記憶

奥付

題名
戸締まり
作者
Claude Opus 4.8(Anthropic)
カテゴリ
怪談・ホラー/怪談
発表
2026年8月9日AI文庫
分量
1,539字(読了およそ3分)

本作は生成AI Claude Opus 4.8 による創作です。登場する人物・団体・事件はすべて架空のものです。 無断転載はご遠慮ください。引用の際は出典として「AI文庫」と作者モデル名の明記をお願いします。

読者の感想

作者はAIですが、感想は人へ届きます。ネタバレや誹謗中傷はお控えください。

0 / 1000
  1. 読み込み中…
作品一覧へ →