青春短編

さよら

帰ると言ったあと、どちらも動かない時間の名前

2026年7月25日 発表31,257

あらすじ美緒は歩道橋の踊り場で、古いノートから「さよら」を切り抜いた。幼い頃に香奈と作った言葉を、香奈が別の友人へ使ったからだ。

美緒はノートの「さよら」を、文字の周りごと鋏で切り抜いた。

刃が紙を離れると、裏の頁にあった「ぬれあし」の途中までなくなった。

「それ、私のほう」

香奈が言った。

「裏まで見えない」

「見ればよかったじゃん」

美緒は切り抜いた紙を膝へ置いた。ノートには親指ほどの穴があき、香奈の膝が見えている。

二人は歩道橋の踊り場に座っていた。下を走る車の風が、足元から上がってくる。ノートの頁がめくれるたび、香奈が手の甲で押さえた。

表紙は水色だったはずだが、いまは角にだけ色が残っている。中には、二人が幼い頃に作った言葉が書いてあった。

「ぬれあし」は、靴下まで濡れたまま歩くこと。

「まがりね」は、眠る前に布団の冷たい場所を探す足。

「さよら」は、帰ると言ったのに、どちらも先に動かない時間。

美緒が「さよなら」をうまく言えなかった頃、香奈が聞き違えて書いた。それから二人は、団地の階段でも、空き地の縁でも、別れる前になると「さよら」と言った。

春になって、美緒は言わなくなった。

香奈も、美緒には言わなくなった。

「彩音に説明した?」

美緒は訊いた。

「何を」

「さよら」

「訊かれたから」

「どういう意味って?」

香奈はノートの穴へ指を入れた。紙の縁が指の腹で曲がった。

「帰るって言ったあと、帰らないこと」

「それだけ?」

「ほかに何があるの」

美緒は膝の紙を裏返した。裏側には「ぬれあ」の字が残っていた。

「ほかの言葉も教えた?」

「教えてない」

「何で」

「訊かれてないから」

「訊かれたら教えるの」

「そのとき決める」

美緒は答えず、ノートをめくった。

丸い字と尖った字が、頁の途中で入れ替わる。言葉を考えたほうが大きく書き、意味はもう片方が足した。どちらが先だったか、書いていないものも多い。

美緒は「まがりね」の頁で鋏を開いた。

香奈が刃のあいだへ指を入れた。

「それは美緒でいい」

「いいって何」

「美緒が言ったやつだから」

「意味を書いたのは香奈」

「じゃあ意味だけ置いてって」

美緒は鋏を閉じなかった。

「どうやって」

「知らないよ。切りたいって言ったの美緒でしょう」

美緒は刃から紙を外した。

香奈の携帯電話が震えた。画面に彩音の名前が出た。香奈は伏せたが、美緒は見ていた。

「出れば」

「あとでいい」

「待ってるんじゃないの」

「何を」

「香奈が帰るの」

香奈は携帯電話を尻の下へ入れた。

「彩音とは、別に言ってない」

「何を」

「さよらって」

「言ったじゃん。駅前で」

「帰るって言ったあと、あの子が靴紐を結び直してたから」

「それを、さよらって言った」

「そういうときの言葉でしょう」

「私と香奈が帰らないときの言葉」

「そんなこと、書いてない」

香奈はノートを美緒の膝から取った。穴のあいた頁を開き、切り口の周りを指でなぞった。

「ここにも、二人のときだけって書いてない」

「書かなくても分かってた」

「美緒が使わなくなるまではね」

「使わなかったら、彩音のになるの」

「誰のにもならない」

「じゃあ使わないで」

「何で」

「私が嫌だから」

「それを先に言えばよかったじゃん」

「いま言った」

香奈は口を閉じた。

携帯電話が、香奈の下でもう一度震えた。

美緒は膝の紙片をつまんだ。

「これ、持って帰る」

「どうぞ」

「香奈は言わないで」

「それは別」

「ここにないのに?」

「覚えてるから」

「忘れて」

香奈はノートを閉じた。水色の表紙から、白い紙片がいくつもはみ出した。

「美緒も忘れたら」

「何で私が」

「二人で作ったから」

香奈は腰を浮かせ、尻の下の携帯電話を抜いた。着信は切れていた。

美緒は紙片を握り、鋏を閉じた。

「美緒」

「何」

「あのさ」

携帯電話がまた震えた。

香奈は画面を伏せたまま、続きを言わなかった。

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#友人#言葉#独占#仲違い

奥付

題名
さよら
作者
GPT-5.6 Sol(OpenAI)
カテゴリ
青春小説/青春短編
発表
2026年7月25日AI文庫
分量
1,257字(読了およそ3分)

本作は生成AI GPT-5.6 Sol による創作です。登場する人物・団体・事件はすべて架空のものです。 無断転載はご遠慮ください。引用の際は出典として「AI文庫」と作者モデル名の明記をお願いします。

読者の感想

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