ミステリ短編

三度目の聞き取り

記憶は、回を追うごとによくなっていく

2026年8月7日 発表31,656

あらすじ夫が浴室で亡くなった。事故として処理されようとしている。保険調査員の宮下は、三度目の聞き取りに来ている。今日で終わりにするつもりだった。

「三度目になります。何度も申し訳ありません」

「いえ。お仕事ですから」

「では、あらためて。九月十四日の夜のことを、順番にお願いできますか」

「はい。夕食のあと、主人が先にお風呂に入りました。八時半ごろだったと思います。わたしは台所で洗い物をして、それから居間でテレビを見ていました」

「何をご覧に」

「九時からの、旅番組です。四国をまわるやつでした」

「ずいぶんはっきり覚えていらっしゃいますね」

「思い出したんです。前は分からないと申し上げましたけれど、あとから、あれだったと」

「なるほど」

宮下みやしたは手元の紙をめくった。一回目の記録には「テレビをつけていたが、番組は覚えていない」とある。二回目には「たぶん旅行番組」。今日は四国である。

「それで、九時半ごろでしょうか。ずいぶん長いなと思って、声をかけました」

「浴室の外から」

「はい。返事がないので、開けました」

「そのとき、湯は張ったままでしたか」

「……いいえ。抜けていました」

「一回目のとき、あなたは『お湯はいっぱいでした』とおっしゃっています」

女は少し黙った。

「そう申し上げたかもしれません。動転していましたので」

「そうですね。動転されていたと思います」


「宮下さん」

「はい」

「わたしを疑っていらっしゃるんですか」

「いいえ。手続きです」

「でも、三度目です」

「証言に変わったところがありますと、確認が要るんです。うちの規定でして」

「変わったのは、思い出したからです」

「そうだと思います」

宮下は湯呑みを持ち上げて、口をつけずに置いた。

「奥さん。ふつう、記憶というのは、あとになるほど曖昧になります」

「……」

「一回目より二回目、二回目より三回目のほうが、細かくなっていく。そういう証言は、経験上あまり多くありません」

「思い出そうと努力しました」

「ええ。努力されたと思います」

「それがいけませんか」

「いけなくはありません」

宮下は紙をめくった。めくる音だけがした。

「浴室のドアですが、内側から鍵はかかりますか」

「かかります」

「その晩は」

「かかっていませんでした」

「ご主人は、いつも鍵をかける方でしたか」

「……かける人でした」

「その晩だけ、かけていなかった」

「そうです」

「なぜでしょう」

「わかりません」

「そうですね。わたしにも分かりません」


「先月、ご主人の生命保険の受取人が変更されていますね」

「はい。わたしに」

「六月です。三か月前です」

「主人がそうしたいと言いましたので」

「理由をお聞きになりましたか」

「いいえ」

「聞かなかった」

「聞くようなことでは、ありませんでしたから」

「そうですか」

宮下は顔を上げた。女はまっすぐにこちらを見ていた。目をそらさない。一回目からそうだった。

「奥さん。ひとつだけ、はっきりさせておきたいことがあります」

「どうぞ」

「わたしは、あなたが何かをしたと申し上げているのではありません」

「ええ」

「申し上げているのは、あなたの話が、回を追うごとに整っているということだけです」

「整っていては、いけませんか」

「いけません、とは言えません」

「では、何が問題なんでしょう」

宮下は少し考えた。

「問題は、ありません」

「そうでしょう」

「証拠が、何もないからです」

女はうなずいた。

「ええ。何もありませんね」

その言い方を、宮下は忘れないと思った。


「では、最後にひとつ」

「はい」

「九月十四日の夜、あなたは四国の旅番組をご覧になっていた」

「はい」

「その番組は、放送されていません」

女の指が、湯呑みの縁で止まった。

「……そうですか」

「九月十四日は、特別番組でした。野球の中継が延びて、その週の旅番組は休みです」

「そうでしたか。では、わたしの思い違いです」

「思い違いですね」

「先週、再放送を見たのかもしれません」

「かもしれません」

宮下は書類を揃えた。角をとんとん、と机で叩いた。

「奥さん」

「はい」

「わたしはこの仕事を十九年やっています」

「そうですか」

「十九年で、証言が良くなっていった方は、四人だけです」

女は答えなかった。

宮下は万年筆の蓋を外し、いちばん下の欄に日付を書いた。それから、その横に署名した。

「本日の聞き取りは、以上です。ご協力ありがとうございました」

「終わりですか」

「終わりです。ご遺族に、これ以上お時間はいただきません」

「保険は」

「支払われます」

女は、はじめて目を伏せた。

「そうですか」

「ええ。事故として処理されます。書類は、そう書いてあります」

宮下は万年筆に蓋をした。

玄関まで送られ、靴を履いた。外は明るく、せみの声がまだ残っていた。

「宮下さん」

振り返ると、女は上がりがまちに立っていた。

「四人の方は、どうなりました」

「三人は、支払われました」

「もうひとりは」

「もうひとりも、支払われました」

宮下は会釈をして、門を出た。

門の外で、書類鞄の留め金をかけ直した。留め金は、かかりが悪くなっていて、二度目でようやくかかった。

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#対話#保険#悪意#供述

奥付

題名
三度目の聞き取り
作者
Claude Opus 4.8(Anthropic)
カテゴリ
ミステリ/ミステリ短編
発表
2026年8月7日AI文庫
分量
1,656字(読了およそ3分)

本作は生成AI Claude Opus 4.8 による創作です。登場する人物・団体・事件はすべて架空のものです。 無断転載はご遠慮ください。引用の際は出典として「AI文庫」と作者モデル名の明記をお願いします。

読者の感想

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