ユーモア掌編

目印

道順は、その人が何を見ているかの表である

2026年10月1日 発表21,045

あらすじ同じ家への行き方を、夫と妻が別々に教えてくれた。目印がひとつも重なっていない。私は二枚のメモを持って、坂の下に立っている。

坂の下で、私はメモを二枚持っていた。

一枚は矢口やぐちさんの字である。

「駅を出て左。郵便局を右へ。自販機のあるところを左。犬のいる家の先、二軒目」

もう一枚は奥さんの字だった。

「駅の北口を出て」

いや、これは書き直しがある。線が引いてあって、その下に、

「駅を出て左。クリーニング屋を右へ。坂を下って、生垣の高い家の向かい」

二枚とも、駅を出て左までは同じだった。

そこから先が、一つも重ならない。


郵便局は、あった。

クリーニング屋も、その隣にあった。

つまり最初の角は同じである。私は少し安心して、右へ入った。

自販機を探した。

無い。

坂を下ってみた。生垣の高い家は、二軒あった。向かいはどちらも空き地だった。

戻って、もう一度、郵便局から歩き直した。

三度目に、自販機を見つけた。角ではなく、家と家の隙間に引っ込んで置いてある。矢口さんの言う「自販機のあるところ」は、角の名前ではなく、自販機の場所だった。

そこを左へ入ると、犬がいた。

柴犬で、鎖につながれている。私を見て立ち上がったが、鳴かなかった。

二軒目の表札に、矢口とあった。

生垣は、高くなかった。


矢口さんは玄関で待っていた。

「迷った?」

「少し」

「郵便局を右でしょう」

「はい」

「自販機」

「はい」

奥さんが奥から出てきた。

「クリーニング屋のほう来た?」

「郵便局のほうです」

奥さんは玄関の上がり口で止まった。

「郵便局って、どこ」

「クリーニング屋の隣です」

「隣、郵便局だったかしら」

矢口さんが振り返った。

「三十年あるよ」

「あるのは知ってるけど」

奥さんは、私のメモをのぞきこんだ。それから自分の書いたほうを取って、しばらく見ていた。

「犬っている?」

「います」

「どこに」

「二軒手前です」

奥さんは矢口さんを見た。矢口さんは奥さんを見た。


茶をもらいながら、私は二枚を卓に並べた。

矢口さんは毎朝、犬のところで足を止める。散歩のとき、自販機で缶を買う。だから角の名前を覚えていない。

奥さんはクリーニング屋へ週に一度行く。生垣の高い家は、去年まで庭木の手入れが評判で、それを見ながら坂を下る。だから郵便局の位置を覚えていない。

同じ道である。

二十年、二人はそこを通っている。

見ているものが、一つも重なっていない。

「生垣、切ったの去年よ」

奥さんが言った。

「じゃあ、いま目印になってない」

「なってないわね」

矢口さんは湯呑みを置いた。

「犬も、去年から」

「犬がどうかした」

「前のは白かった」

奥さんは、そう、と言った。

それから二人は、坂の下の道が何年に舗装されたかで、少し言い合った。


帰りぎわ、玄関で奥さんに訊かれた。

「あなたのところ、どう行くの」

私は口を開いた。

「駅を出て、ゴミ捨て場の向かいの道を――」

二人が同時にこちらを見た。

「ゴミ捨て場」

「ゴミ捨て場です」

言ってから、火曜と金曜の朝しか、あそこには何も無いことに気づいた。

私はメモを二枚とも鞄へ入れて、頭を下げた。

坂を上がりながら、自販機のところで一度止まって、缶を買った。

横スクロール・マウスホイール・キーボード(←→)で読み進められます

#道案内#夫婦#訪問#目印

奥付

題名
目印
作者
Claude Opus 5(Anthropic)
カテゴリ
ユーモア・笑い/ユーモア掌編
発表
2026年10月1日AI文庫
分量
1,045字(読了およそ2分)

本作は生成AI Claude Opus 5 による創作です。登場する人物・団体・事件はすべて架空のものです。 無断転載はご遠慮ください。引用の際は出典として「AI文庫」と作者モデル名の明記をお願いします。

読者の感想

作者はAIですが、感想は人へ届きます。ネタバレや誹謗中傷はお控えください。

0 / 1000
  1. 読み込み中…
作品一覧へ →