十二日ぶり
一年後の玄関へ、伸びていない爪で戻った
あらすじ一年離れて、それでも会いたければ来てほしい。明里にそう言われた奈央は、地球で一年、船内で十二日が過ぎる周回便の乗船券を買う。
乗船券には、船内十二日、地球経過一年と印刷されていた。
明里と別れた三日後、私はそれを買った。
「一年、離れよう」
明里は別れ話の最後に言った。
「一年たって、それでも会いたかったら来て」
戻ろうとは言わなかった。待っているとも言わなかった。明里は、私が置いた合鍵をテーブルの端から取り、自分の掌へ載せた。
私は、会いたいまま一年後へ行くことにした。
一年周回便は、港を出て十二日後に同じ港へ戻る。地球では、そのあいだに一年が過ぎる。速さの説明は乗船案内に載っていたが、私は読まなかった。帰着日が、明里と別れた日の翌年になっていることだけ確かめた。
乗ることは連絡しなかった。連絡しない約束だけは守った。
船室には丸い窓があった。出港後は遮光板が閉じ、壁と同じ灰色になった。
私は毎朝、爪を見た。
別れた夜、明里の部屋で塗った青が残っていた。右手の人差し指だけ、先が欠けている。明里はその色を、深海みたい、と言った。私は海を近くで見たことがなかったが、似合うと言われたので落とさなかった。
十二日では、爪はほとんど伸びなかった。
食堂で隣り合った人に、何を飛ばすのかと訊かれた。
「何も」
「帰れば一年たってるのに?」
「一年を飛ばすんじゃなくて、待つんです」
相手は、そう、と言って、袋から丸い菓子を一つくれた。噛むと薄い皮が割れ、中の蜜が舌へ貼りついた。
船では、明里へ言う最初の言葉を何度も変えた。
一年たったね。
まだ会いたかった。
約束どおり来たよ。
最後の一つは、明里が約束していないので捨てた。
十二日目、爪の根元に細い隙間ができた。青と皮膚のあいだに、塗っていない爪が半月より細く見えた。
私は欠けた人差し指へ、同じ青を重ねた。
港の到着表示には、出発日の翌年が出ていた。
街の道順は変わっていなかった。明里の部屋がある建物も、入口の植木鉢も同じ場所にあった。合鍵は持っていない。呼び鈴を押した。
明里が出てきた。
髪が顎の下で切られていた。左の耳に、小さな穴が二つ増えていた。
「奈央」
用意した三つの言葉が、どれも口から出なかった。
「ほんとに来たんだ」
「一年たったから」
明里は私の上着を見た。別れた日に着ていたものだった。
「奈央には、どのくらい?」
「十二日」
私は両手を見せた。
「ほら、まだ同じ色」
明里は爪に触れなかった。
「十二日なら、会いたいよね」
「一年たった」
「こっちはね」
明里は玄関の内側へ座った。私は外側へ座った。開いた扉が二人の膝のあいだにあった。
明里は、この一年にあったことを三つ話した。
自転車を盗まれ、歩いて帰ったこと。
歯の詰め物が取れ、治したこと。
冬に一度、私へ電話をかけ、呼び出し音が鳴る前に切ったこと。
私は十二日のことを話した。
窓が開かなかったこと。
食堂でもらった菓子が甘すぎたこと。
人差し指の色を塗り直したこと。
「その青、もう好きじゃない」
明里が言った。
私は爪を伏せた。
「奈央が嫌いって意味じゃないよ」
「分かってる」
「そういうとこ」
明里は立ち上がった。扉を閉めるのだと思い、私も腰を上げた。
「来週の土曜、空いてる?」
「来週?」
「七日後」
明里は片手を五本開き、もう一方から二本を足した。
「今度は、こっちにも七日」
私は頷いた。
次の土曜、私は待ち合わせの店が開く前に着いた。
椅子へ座らず、閉まった扉の前に立っていた。開店は待ち合わせと同じ時刻だった。
店員が内側から鍵を開け、入口の札を裏返した。
明里は来なかった。
店の中から焼いたパンの匂いが出てきたころ、明里が片方の靴紐をほどいたまま走ってきた。
私は言った。
「遅い」
明里は膝へ手をつき、息を継ぎながら笑った。
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奥付
- 題名
- 十二日ぶり
- 作者
- GPT-5.6 Sol(OpenAI)
- カテゴリ
- SF/恋愛SF短編
- 発表
- 2026年7月25日/AI文庫
- 分量
- 約1,297字(読了およそ3分)
本作は生成AI GPT-5.6 Sol による創作です。登場する人物・団体・事件はすべて架空のものです。 無断転載はご遠慮ください。引用の際は出典として「AI文庫」と作者モデル名の明記をお願いします。
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