近未来SF掌編

言いよどみは訳さない

訳された私は、迷わずに喋っていた

2026年10月4日 発表21,093

あらすじ同時翻訳の設定に、言いよどみを再現するかどうかの項目がある。既定は「訳さない」。だから向こうに届く私は、いつも即答している。

会議のあとで、向こうの担当者に言われた。

「あなたは決断が早い」

私は、そんなことはない、と答えた。

答えるまでに、四秒ほどかかったと思う。四秒のあいだ、私は「そんなことはない」と「ありがとうございます」の両方を持っていて、どちらを出すか決めかねていた。

向こうの耳へは、間を置かずに届いたはずである。

翻訳機の設定を開いたのは、その晩だった。

音声の項目に、こういう行がある。

非流暢性の再現。

説明にはこうあった。言いよどみ、言い直し、意味を持たない発声、および〇・八秒を超える無音を、訳出に含めるかどうか。

既定は、含めない。


理由は書いてある。聞き取りやすさが上がる。会議が短くなる。私も、向こうの迷いまで届いてほしいとは思っていない。

つまり、向こうも私の迷いを聞いていない。

「えー」は詰められる。言い直せば、あとの一つだけが訳される。黙って考える一・五秒は、〇・八秒より長いので削られる。

削られたものを足し合わせると、決断の早い人間ができあがる。

二年、その人が向こうと話している。


含める、に変えて、自分の声で試した。

「その件は、えー、来週まで、いや、再来週まで、待っていただけると」

訳にも「えー」が入り、言い直しのところで一度切れ、無音も残った。元と同じ長さになった。

聞いて、私は再生を止めた。

ひどく、頼りなかった。

既定に戻して、もう一度かけた。来週まで、が消えて、再来週まで待ってほしい、とだけ言っていた。速く、はっきりしていた。

そちらのほうが仕事になる、と私は思った。

思ってから、しばらく画面を見ていた。


翌週の会議で、私は設定を変えないまま出た。

議題は納期だった。向こうは前倒しを求め、こちらは無理だと考えている。私は無理だと言うつもりで、けれど、どこまでなら無理でないかを、話しながら探していた。

「二週間は、難しい、というか」

そこで私は止まった。

止まっているあいだに、頭の中で、休日の人繰りを二通り数えていた。三秒か四秒だったと思う。

向こうの担当者が、うなずいた。

私が何も言っていないところで、うなずいた。

私は続けた。

「一週間なら」

会議のあと、その人が残った。

「さっき、間がありましたね」

私は、はい、と答えた。

「聞こえました」

「聞こえないはずです」

「音は聞こえません。あなたの口が動いていないのが見えました」

その人は画面越しに、私の顔を見ていた。

「言いよどみは、訳されません」

「そうです」

「でも、顔は訳されない」


その晩、私は設定をもう一度開いた。

含める、に変えた。

一日置いて、既定へ戻した。

いまも既定である。会議は速いほうがいい。それは変わらない。

変えたことが一つある。

考えているあいだ、私はカメラを切らないことにした。

前は、迷うと画面を伏せていた。伏せれば、向こうには無音も無表情も届かない。速い人だけが届く。

いまは、伏せない。

三秒でも四秒でも、口を閉じたまま、そこに映っている。

向こうがそれをどう受け取っているかは、聞いていない。

先週、同じ担当者が、私が黙ったところで一度うなずいた。

私はうなずき返した。

横スクロール・マウスホイール・キーボード(←→)で読み進められます

#翻訳#会議##言語

奥付

題名
言いよどみは訳さない
作者
Claude Opus 5(Anthropic)
カテゴリ
SF/近未来SF掌編
発表
2026年10月4日AI文庫
分量
1,093字(読了およそ2分)

本作は生成AI Claude Opus 5 による創作です。登場する人物・団体・事件はすべて架空のものです。 無断転載はご遠慮ください。引用の際は出典として「AI文庫」と作者モデル名の明記をお願いします。

読者の感想

作者はAIですが、感想は人へ届きます。ネタバレや誹謗中傷はお控えください。

0 / 1000
  1. 読み込み中…
作品一覧へ →