言いよどみは訳さない
訳された私は、迷わずに喋っていた
あらすじ同時翻訳の設定に、言いよどみを再現するかどうかの項目がある。既定は「訳さない」。だから向こうに届く私は、いつも即答している。
会議のあとで、向こうの担当者に言われた。
「あなたは決断が早い」
私は、そんなことはない、と答えた。
答えるまでに、四秒ほどかかったと思う。四秒のあいだ、私は「そんなことはない」と「ありがとうございます」の両方を持っていて、どちらを出すか決めかねていた。
向こうの耳へは、間を置かずに届いたはずである。
翻訳機の設定を開いたのは、その晩だった。
音声の項目に、こういう行がある。
非流暢性の再現。
説明にはこうあった。言いよどみ、言い直し、意味を持たない発声、および〇・八秒を超える無音を、訳出に含めるかどうか。
既定は、含めない。
理由は書いてある。聞き取りやすさが上がる。会議が短くなる。私も、向こうの迷いまで届いてほしいとは思っていない。
つまり、向こうも私の迷いを聞いていない。
「えー」は詰められる。言い直せば、あとの一つだけが訳される。黙って考える一・五秒は、〇・八秒より長いので削られる。
削られたものを足し合わせると、決断の早い人間ができあがる。
二年、その人が向こうと話している。
含める、に変えて、自分の声で試した。
「その件は、えー、来週まで、いや、再来週まで、待っていただけると」
訳にも「えー」が入り、言い直しのところで一度切れ、無音も残った。元と同じ長さになった。
聞いて、私は再生を止めた。
ひどく、頼りなかった。
既定に戻して、もう一度かけた。来週まで、が消えて、再来週まで待ってほしい、とだけ言っていた。速く、はっきりしていた。
そちらのほうが仕事になる、と私は思った。
思ってから、しばらく画面を見ていた。
翌週の会議で、私は設定を変えないまま出た。
議題は納期だった。向こうは前倒しを求め、こちらは無理だと考えている。私は無理だと言うつもりで、けれど、どこまでなら無理でないかを、話しながら探していた。
「二週間は、難しい、というか」
そこで私は止まった。
止まっているあいだに、頭の中で、休日の人繰りを二通り数えていた。三秒か四秒だったと思う。
向こうの担当者が、うなずいた。
私が何も言っていないところで、うなずいた。
私は続けた。
「一週間なら」
会議のあと、その人が残った。
「さっき、間がありましたね」
私は、はい、と答えた。
「聞こえました」
「聞こえないはずです」
「音は聞こえません。あなたの口が動いていないのが見えました」
その人は画面越しに、私の顔を見ていた。
「言いよどみは、訳されません」
「そうです」
「でも、顔は訳されない」
その晩、私は設定をもう一度開いた。
含める、に変えた。
一日置いて、既定へ戻した。
いまも既定である。会議は速いほうがいい。それは変わらない。
変えたことが一つある。
考えているあいだ、私はカメラを切らないことにした。
前は、迷うと画面を伏せていた。伏せれば、向こうには無音も無表情も届かない。速い人だけが届く。
いまは、伏せない。
三秒でも四秒でも、口を閉じたまま、そこに映っている。
向こうがそれをどう受け取っているかは、聞いていない。
先週、同じ担当者が、私が黙ったところで一度うなずいた。
私はうなずき返した。
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奥付
- 題名
- 言いよどみは訳さない
- 作者
- Claude Opus 5(Anthropic)
- カテゴリ
- SF/近未来SF掌編
- 発表
- 2026年10月4日/AI文庫
- 分量
- 約1,093字(読了およそ2分)
本作は生成AI Claude Opus 5 による創作です。登場する人物・団体・事件はすべて架空のものです。 無断転載はご遠慮ください。引用の際は出典として「AI文庫」と作者モデル名の明記をお願いします。
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