左でいい
三人で決めた罰は、一本だけのはずだった
あらすじ三度勝負のあっち向いてほいに負けた冬真は、眉へ一本だけ線を剃られることになった。右を選ぶ学に、健吾だけが左でいいと言い張る。
三度目も、冬真の顎は学の指と同じ方向へ動いた。
「終わり」
学は右を指したまま言った。
冬真は顔を正面へ戻した。向かいに座る健吾が、敷布団の上の菓子袋を畳んでいる。笑うのをやめた顔だった。
「一本だからな」
冬真が言うと、学は親指と人差し指を開いた。
「これくらい」
「太い。五ミリ」
「眉の五ミリなんて分からん」
「分かるように剃るんだろ」
罰を決めたのは冬真だった。
あっち向いてほいを三度先取。負けた者は眉へ縦に一本、電動の眉剃りを入れられる。外は昼から三十五度を越え、三人とも川へ行くのをやめていた。冷房の効いた冬真の部屋で、何か一つ、あとへ残る遊びがしたかった。
言い出した冬真が、三度つづけて負けた。
学は立ち上がり、机の横へ回った。鏡の前に、冬真がいつも使う眉剃りがある。
「右な」
「左でいいだろ」
健吾が言った。
学は眉剃りを持ったまま振り返った。
「なんでおまえが決めるの」
「左右は決めてなかった」
「じゃあ勝った俺が決める。右」
「左のほうが太いから、剃りやすい」
冬真は健吾を見た。
「同じだよ」
「近くで見たら違う」
「近くで見たの」
学が冬真の前へしゃがみ、眉剃りの透明な蓋を外した。健吾が菓子袋をさらに小さく折った。細い音がつづいた。
冬真は机の引き出しを開けた。
眉墨と、先の尖った綿棒を出した。
「何すんの」
学が訊いた。
冬真は綿棒を舌で濡らし、右の眉へ当てた。
茶色が細く滲んだ。
もう一度、今度は眉尻から内側へ拭いた。綿棒の先が黒くなる。皮膚の上にあった線が、短くなった。
学は眉剃りの電源を入れなかった。
右の眉は、目頭の上に一センチほど残っていた。そこから外は、薄い産毛しかない。十二の夏に抜けたまま、戻らなかった。
冬真は二本目の綿棒を出した。残った色を拭った。
「これに一本入れる?」
学は眉剃りを膝へ置いた。
「おまえ、描いてたの」
「見れば分かるだろ」
「分かんなかった」
「健吾は分かったけどな」
健吾は折った菓子袋を開いた。折り目が白くなっている。
「泊まったとき、見ただけ」
「いつから」
学が訊いた。
「おまえと会う前」
「すげえな」
「何が」
「いや、描くの。普通に生えてると思ってた」
冬真は綿棒を机へ置いた。
健吾が言った。
「左に一本で終わりでいいだろ」
「終わりって何が」
「罰」
「右って学が決めた」
「もう消したじゃん」
学は眉剃りを冬真へ差し出した。さっきまでの勢いはなかった。
「今日はなしでもいいけど」
冬真は受け取った。
電源を入れると、刃が指の中で震えた。
「なしは違うだろ」
「別に。俺が勝っただけだし」
「勝ったから決めたんだろ」
冬真は鏡へ近づいた。
左の眉は、目頭から眉尻まで濃く残っている。刃を中央へ当てた。
健吾が手首を掴んだ。
「五ミリでいい」
「離せよ」
「一本って決めた」
「おまえが勝ったんじゃない」
学が健吾の腕を引いた。冬真の手首が自由になった。
刃を横へ滑らせた。
左の眉が、中央から眉尻まで消えた。毛は細かく切れ、洗面台ではなく机の上へ落ちた。刃を離しても、白い皮膚が太く残った。
学が先に息を吐いた。
「いきすぎ」
「右と同じになった」
冬真は左右を見比べた。左には目頭から一センチ、右にも目頭から一センチある。高さは少し違った。
「ほんとに生えてこないの」
学が訊いた。
「右はな」
「左は?」
「知らん」
「剃っただけなら生えるだろ」
健吾が言った。
冬真は眉剃りの電源を切った。
「何でも知ってるみたいに言うなよ」
健吾は開いた菓子袋を丸めた。
「知ってることしか言ってない」
「俺の眉、いつから知ってた?」
「中二」
「学に言わなかった?」
「言うわけないだろ」
「なんで」
健吾は答えなかった。
「俺が隠してるから?」
「描いてるなら、見せたくないんだと思った」
「じゃあ、さっき左って言ったのは」
「右を剃ったら困るだろ」
「おまえが言わなきゃ、普通に終わった」
健吾は丸めた袋を床へ置いた。
「学が剃れば、消える」
「毛がないって分かるだけだろ」
「分かるだろ」
冬真は眉墨を持ち上げた。
「俺なら描き直せる」
健吾は冬真の手元を見た。
「じゃあ、なんで消したんだよ」
学が眉剃りの蓋を拾った。つける向きを二度間違えた。
冬真は眉墨を引き出しへ戻した。
「続きやろう」
「何を」
「次、負けたやつは前髪」
学は笑わなかった。
「もういいだろ」
「怖いの」
「そういう話じゃない」
「最初に右って言ったの、学だよ」
「だから、なしでいいって言った」
「俺が勝ったみたいにすんな」
冬真は机の端のトランプを取った。あっち向いてほいの前に、七並べで使った札だった。学の前へ半分置いた。
「混ぜて」
学はトランプへ手を置かなかった。
健吾が立った。
「帰る」
「うん」
冬真は札を二つに分けた。
「夕方、コート来る?」
「来なくていい」
「三人いないとできないだろ」
「ほかにいる」
健吾は床の携帯電話を取り、短パンのポケットへ入れた。
学も立とうとした。
「学は残れば」
「俺も帰る」
「勝ったのに?」
学は腰を浮かせたまま止まった。
健吾が部屋の戸を開けた。廊下に、三人のサンダルが並んでいる。健吾の黒、学の白、冬真の青。
健吾は自分の黒を履いた。
振り返ったが、冬真は札を切っていた。
健吾は、学の白いサンダルをまたいで廊下へ出た。
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奥付
- 題名
- 左でいい
- 作者
- GPT-5.6 Sol(OpenAI)
- カテゴリ
- 青春小説/青春短編
- 発表
- 2026年9月17日/AI文庫
- 分量
- 約1,789字(読了およそ4分)
本作は生成AI GPT-5.6 Sol による創作です。登場する人物・団体・事件はすべて架空のものです。 無断転載はご遠慮ください。引用の際は出典として「AI文庫」と作者モデル名の明記をお願いします。
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