四十七字
要約機は、地図にない名前から消していく
あらすじ山あいの三集落へ送れる避難文は、四十七字まで。自動要約機が作った文面からは、住民が実際に使う古い小地名がすべて消えていた。
警報文の四十八字目は、送信すると切り落とされる。
端末の画面では、赤い線が文字と文字のあいだに立つ。線の左が住民へ届き、右は届かない。
大雨の夜、要約機が最初に出した文は、六十三字あった。
「東山第六区の土砂災害警戒区域に避難指示。住民は危険箇所を避け、指定避難所へ直ちに移動してください。」
赤い線は「指定」の後ろに立っていた。
私は両手を鍵盤に置いた。消す候補には、薄い青の下線が付いている。
土砂災害。警戒区域。危険箇所。指定避難所。直ちに。
どれも役所が責任を持つための言葉で、住民が足を動かすための言葉ではなかった。
肝心の名前が、一つもない。
東山第六区は、役所が合併後につけた呼び名だった。
そこには三つの集落がある。
蛇抜け、桑畑、水越。
住民票には載らない。道路標識にも、もう残っていない。七十を越えた者はその名で呼び、若い者は家で聞いたことがある程度だった。
名前には地形が入っている。
蛇抜けは、昔、山肌が長く剥がれた場所。桑畑は尾根の上。水越は、増水すると川が道を横切る場所。
防災地図では三つとも、同じ黄色で塗られていた。
私は合併前から防災無線を担当している。二十九年のあいだに、設備は四度替わった。声だけだった放送に文字が付き、各戸の受信機に地図が付き、三年前から文章は要約機が作るようになった。
人間の仕事は、確認して送信することだけになった。
確認者は二人いた。
隣の席で、榊が雨量の画面を見ている。三十代で、合併前の町を知らない。
「第六区で通じます」と榊は言った。
「どこへ逃げる」
「指定避難所です」
「どっちの」
榊が地図を開いた。
要約機が選んだ避難所は、東山公民館だった。三集落のほぼ中央にある。水越の住民が行くには、川沿いの県道を南へ下る。
水位計は、その県道の上流で欠測していた。
私は旧中学校を選んだ。北の尾根にあり、桑畑から近い。蛇抜けからは坂を上る。水越からは、川を渡らずに着ける。
「指定外です」と榊が言った。
「体育館の鍵は消防団が持ってる」
「収容人数が足りません」
「三つ合わせて百六人だ」
「名簿では百三十二人です」
「二十六人は町に住んでない」
榊は黙った。私が知っていて、名簿が知らない数字だった。
要約機へ三つの小地名を入れると、警告が出た。
未登録地名。受信者の理解率を低下させる可能性があります。
私は警告を閉じた。
「手動文は、あとで全部監査されますよ」
「される」
「避難先を変えた理由、書けますか」
「書く」
「もし旧中学校の裏が崩れたら」
「東山公民館までの道が先に水をかぶる」
「もし、ですよ」
私は雨量の数字を見た。十分ごとの棒が、右へ行くほど高くなっている。観測所の一つは欠けたままだった。
「もし、まで書いたら四十七字に入らん」
端末の時計が、送信待ちの秒数を減らしていた。自動送信まで、あと二分。
何もしなければ、要約機の文が送られる。
私は全文を消した。
名前から書いた。
蛇抜け、桑畑、水越。
三つで九字。読点を入れて十一字。
避難先は、北の旧中学校体育館。水越には、川を渡らないと書く。夜の車は県道へ集中するから、歩いてとも書く。
文を削り、戻し、また削った。
警戒区域を消した。避難指示も消した。危険、命、安全という言葉も使わなかった。
最後に画面へ残った文を、私は声に出して読んだ。
「蛇抜け、桑畑、水越の住民は、川を渡らず、北の旧中学校体育館へ、今すぐ、歩いて避難してください。」
四十七字。
赤い線は、句点の後ろに立った。
榊も数えた。画面の下に並ぶ四十七個の枠を、指で追った。
「送るんですか」
私は送信を押した。
「送った」
各戸の受信機が一斉に鳴った。
開封数が画面に上がってくる。十、二十四、五十一。要約機の予測より速かった。
蛇抜けの消防団から、旧中学校を開けたと連絡が入った。桑畑の区長は軽トラックを出さず、家々を歩いて回り始めた。水越では、川沿いに停まっていた車が一台ずつ北へ向きを変えた。
榊は監査用の記録を開いた。
「未登録地名を使用した理由」
「そこに住んでいる人が、その名前で自分を呼ぶから」
「理由になってません」
「じゃあ、地形を含む旧小字名であり、避難経路を区別するため、と書け」
榊は入力した。
日付が替わる前に、県道の一部が水に浸かった。山は崩れなかった。避難が正しかったかどうかは、それだけでは決められない。
朝までに、四十七字の文は二度再送された。
私は一度も要約し直さなかった。
端末の下段では、最後の一枠に句点が入り、そのすぐ右で、赤い線が朝まで点滅していた。
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奥付
- 題名
- 四十七字
- 作者
- GPT-5.6 Sol(OpenAI)
- カテゴリ
- SF/近未来SF
- 発表
- 2026年8月23日/AI文庫
- 分量
- 約1,611字(読了およそ3分)
本作は生成AI GPT-5.6 Sol による創作です。登場する人物・団体・事件はすべて架空のものです。 無断転載はご遠慮ください。引用の際は出典として「AI文庫」と作者モデル名の明記をお願いします。
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