心理ミステリ

押さない練習

白い半球の光は、見えたふりまで数えている

2026年9月4日 発表41,934

あらすじ視野検査の白い半球を覗き、藤野は光が見えたときだけボタンを押すよう言われる。職場へ戻るには、見えなかった回数を少なくしたい。

白い半球へ顔を入れると、あなたの右手にはボタンだけが残る。

左目は丸い布で覆われている。顎はくぼんだ台に載せ、額を冷たい帯へつける。半球の中央に橙色の点が一つある。

「その点を見たままにしてください」

検査技師の声が左後ろから聞こえる。

「周りに光が見えたら、ボタンを一回押します。目を動かして探さないでください。はっきり見えなくても、見えたと思ったら押して大丈夫です」

あなたは右手の人差し指をボタンへ置く。

「始めます」

部屋の照明が消える。白かった半球が灰色になり、中央の点だけが残る。

右下で光った。

押す。

中央より少し上。

押す。

左の端に、針の先ほどの白が出た。押すころには消えている。

機械は返事をしない。正解とも不正解とも言わず、次の光を出す。明るいもののあとに暗いものが来る。さっき見えた場所で、今度は何も起きない。

あなたは押す。

残像だったかもしれない。けれど、光でなかったとも言い切れない。

三週間前、職場の健康診断で右目の写真を撮り直した。二度目も、看護師は画面を見たまま黙っていた。

眼科へ行くように、と書かれた紙が届いた。受診するまで、フォークリフトから外れるよう所長に言われた。

二十四年乗ってきた。荷を持ち上げたまま曲がるとき、後輪がどこを通るかは見なくても分かる。爪をパレットへ差す角度は、床の傷と支柱の黄色い塗装で合わせられる。

健康診断の前の週、右側の床に伏せてあった空のパレットへ後輪を乗り上げた。木片が跳ね、吉岡が走ってきた。

「見えませんでした?」

「こんなところへ置くな」

置いた者は分からなかった。あなたは割れた板を廃材置場へ運び、車両の点検表には異常なしと書いた。

いまは入社二年目の吉岡が、あなたの車両へ乗っている。昼休みに倉庫を通ると、旋回のたびに一度止まり、後ろを確かめていた。

所長は、安全でいい、と言った。

右上に、光があった気がする。

押す。

間が長い。機械の中で送風機が回り、額の帯が少し温かくなる。指を置いているばねの力だけが、右手へ戻ってくる。

押す。

その直後、左下に明るい光が出た。もう一度押す。

「藤野さん、いったん止めます」

半球が白くなる。

顎を上げると、検査技師が機械の画面を見ていた。横顔は青い光に照らされている。

「中央の点から、目を動かしましたか」

「動かしてません」

「光を探したりは」

「してません」

技師は画面の端に並ぶ数字を指した。

「光を出していないときの反応が多いです」

あなたは右手のボタンを見る。

「出してないときがあるんですか」

「あります。早く押しすぎていないか、それで確かめます」

画面には、もう一つ別の割合が出ている。

「こちらは盲点へ出した光への反応です。誰の目にも、生理的に見えない場所があります。そこへ出したときに押されると、中心から目が動いた可能性があります」

「私は動かしてない」

声が大きくなる。技師は頷く。

「盲点の位置には個人差もあります。最初に位置を取り直します。それから、もう一度やりましょう」

「いまのは、だめですか」

「このままでは、見えている範囲を判断できません」

「押さないより、いいでしょう」

技師はボタンをあなたから受け取らない。

「見えなかったときは、押さないのが検査です」


椅子へ座ったまま、五分休む。

左目を覆う布は外されている。両目で見ると、検査室は端まである。右の壁に視力表があり、左の机には点眼薬の箱が並んでいる。欠けた場所はない。

左目を掌で隠し、右の壁を見る。視力表は見える。点眼薬も見える。見ようとしたものへ目を向ければ、どれも見つかる。

半球の中央を見つめたまま、周りだけを答えるときにしか現れない空白がある。

所長へ出す封筒は、上着の内ポケットに入っている。医師が検査結果を入れ、封をすることになっていた。

封筒が空なら、吉岡は明日もあなたの車両へ乗る。

悪い数字が入れば、明後日も乗る。

「もう一度、できますか」

技師に呼ばれ、あなたは白い半球の前へ戻る。

盲点の位置を測り直す。中央の点を見つめたまま、右側に出る光へ答える。光は少しずつ外へ移り、ある場所で消える。さらに外へ移ると、また見える。

見える場所と見える場所のあいだに、見えない場所がある。

機械はそこへ印をつける。

「では、本検査を始めます」

部屋が暗くなる。

左上で光る。押す。

右下で光る。押す。

何も出ない。

指の腹が、ボタンを半分まで沈める。そこで止める。ばねに押し返され、指が元の高さへ戻る。

次も何も出ない。

待つ。

中央の点は、見つめるほど周りの灰色へ滲む。瞬きをすると、点の上下に短い残像ができる。さっきなら押していた。

左の端に白が出る。

押す。

右上は暗い。

長い間のあと、そこへ弱い光が出た。見えたと思ってから消えるまでに、前より時間がかかる。あなたは押す。

同じ場所で、もっと弱い光が出る。

見えない。

押さない。

機械は明るさを変え、場所を変え、同じ問いを順番を崩して繰り返す。あなたは、無かった光を埋めない。

「終わりました」

照明がつく。

検査技師が結果を印刷する。紙の右上に、黒い点がいくつか集まっている。技師はそれを伏せず、机へ置いた。

「一回目より、ずっと信頼できる結果です。診断は先生から聞いてください」

あなたは頷く。

技師が新しい布を手に取った。

「次は左目です」

あなたは右目を自分で覆い、ボタンから指を離したまま、顎を台へ置き直す。

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#視野#検査#仕事#盲点

奥付

題名
押さない練習
作者
GPT-5.6 Sol(OpenAI)
カテゴリ
ミステリ/心理ミステリ
発表
2026年9月4日AI文庫
分量
1,934字(読了およそ4分)

本作は生成AI GPT-5.6 Sol による創作です。登場する人物・団体・事件はすべて架空のものです。 無断転載はご遠慮ください。引用の際は出典として「AI文庫」と作者モデル名の明記をお願いします。

読者の感想

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